2024年2月鑑賞映画ひとことレビュー | (ほぼ)月一更新(予定)鑑賞映画ひとことレビュー

(ほぼ)月一更新(予定)鑑賞映画ひとことレビュー

月一で初鑑賞映画の感想を書いてます。
あくまで個人の感想です。立派な考察・評論は出来ませんのでご容赦下さい。

「2024年2月鑑賞映画ひとことレビュー」

 

2月の初見本数は25本。

 

「トンソン荘事件の記憶」

 色々盛り込み過ぎてしっちゃかめっちゃかな印象。雰囲気は良いのに。

 【60】

 

「ダンテ01」

 過剰な思わせぶりがフランスっぽくてそれはそれで楽しみました。

 【55】

 

「紅い服の少女 第一章 神隠し」

 なんというか怪談としては思ったよりライトな感じだったのがちょっと残念。第二章で印象が変わることを期待。

 【60】

 

「ストップ・メイキング・センス」

 伝説のライブドキュメンタリー4Kリバイバル版。以前はビデオ(泣)でしか観たことなかったので、今回が初見と言っても差し支えないと思います。

 いやーさすがすべてのライブフィルムのベースとなったと言われるだけの事はある、圧倒的な迫力と臨場感。決して変わった事や珍しい事をしているわけでは無いのに、ここまでのライブ感が出せるその演出・撮影・編集・音響のプロフェッショナルさにとにかく感動。トーキング・ヘッズのパフォーマンスが素晴らしいのは勿論だけれど、それを正確だけでなく、魅力を倍増させるような映像は、ある意味「映画でしか味わえないライブ感」というものを堪能させてくれます。そのパフォーマンスが表現しているリズムや意味合いを映像として表現し、またパフォーマーの超絶技法やカリスマ性までもきっちり魅せてくれる計算されつくした90分。最近の「アメリカン・ユートピア」と比較すると(あくまで個人的にですが)こちらの方がライブフィルムとしては完成度が高いかと思います。「アメリカン…」もそうですが、トーキング・ヘッズのファンでなくても十分楽しめるライブ映画ってだけですごいと思うのです。

【80】

 

「アリスとテレスのまぼろし工場」

 こういうのが好き&心に響くのはものすごくわかるのですが、過剰にキレイな絵の中で、色々大事な事が胡麻化され美化されているのが何とも気持ち悪い感じがしたのは自分がいい年したおっさんだからなんでしょうか。

 【50】

 

「ヘルレイザー4 ブラッドライン」

 この内容で最低限の演出技能とSFマインド&センスのある方に是非リメイクしてほしい。

 【55】

 

「ドアーズ(2021)」

 チープなのは全然良いけれど、とりあえず最後まで責任を持ってほしい。

 【50】

 

「ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ」

 世界的ヒットを記録したゲームを、かのブラムハウスが実写映画化したホラー映画。

 ゲーム自体は未プレイ&ほとんど知らずに鑑賞。悲しい事に昨今観た中でもかなりひどい部類に入るダメ映画でした。

 とにかく怖くない。廃墟と化したレストランを舞台に、機械仕掛けの殺人極悪マスコットたちが、バッタバッタと人を襲い殺しまくるバカ系ホラーかと思いきや、なんだかうだつの上がらない過去に傷持つニート暗いあんちゃんが、ただたた悩んでうだうだするという意味不明かつ全く必要のない人間ドラマがメインにあるというお粗末さ。とにかくストーリーがダメダメで、この映画で観客(自分)が期待するであろう派手な大暴れや血しぶき溢れる殺戮場面がほぼ皆無なのはもう論外。取って付けたようなトラウマドラマもありきたりで退屈だし、マスコットたちが暴れだす理由も陳腐。とにかくまったく怖くもない、それでいておふざけ皆無という、この手の映画で一番ダメなものになってしまいました。

 ゲーム未プレイなので、どこまでが原作準拠かわからないですが、実際、こういう映画であればファイブナイツどころかワンナイトで十分。というかそうじゃなきゃダメ。5日も引っ張るにはあまりに陳腐、かついい加減な設定&物語でした。

 まあフランク・オズ味が少しだけ香ったマスコットたちのキモ可愛さだけはかろうじて見る価値ありではありました。

【55】

 

「カラーパープル(2023)」

 映画好きをうたっている人の中でも、名作中の名作、しかも超有名なのに、何故か観ていない映画というのがあるもので(ですよね?)、白状するとスピルバーグの「カラーパープル」、未見です(お恥ずかしい…)。もちろん原作も未読。話題になった当時はSF、アクション、ホラー大好きっ子なおバカティーンだったので(今でもあまり変わりませんが)、こういう重い映画は極力避けてしまっていた訳でして、それからン十年、なんだかんだで未見のまま過ごしてきてしまったのですが。

 という訳でこのミュージカル版が初「カラーパープル」体験。いやーもうとにかく入魂作という言葉がこれほど似あう映画もそうはないでしょう。今まで”カラーパープル”という事象に携わった全ての方々の魂が全てこの映画に凝縮されているといっても過言ではない程の強烈な熱量と、人種のみではない、すべての差別への確固たる批判と怒り、そして許す事の尊さを圧倒的なダンスと歌唱、密度の高い映像で魅せ切るそのスタイルは「これぞ映画!」という魅力にあふれております。あまりに不幸で辛すぎる主人公たちの境遇に、抗う姿勢の消極さに時代を感じつつ、時代と共に変化していく差別の連鎖と、そんな境遇についに爆発、反抗する人々にただただ感動してしまうし、複雑な感情を抱かず、ただそれで良いと思わせてくれるのは非常に好感度大。まあ映画としての演出がそれほど上手では無く、ダンスシーンとかもっと魅せ様はあったとは思うのだけれど(ダンスと歌があまりに素晴らしすぎるので余計に感じてしまった)、それはもう好みというか難癖レベル。すべて熱演なキャストも含め、非常に丁寧に真面目に真摯に作られた良作でした。

【75】

 

「Lift リフト(NETFLXオリジナル映画)」

 古き良き時代を彷彿とさせる「ルパン三世」的なハイスト映画。とはいえ舞台は現代、ネッフリなのでお金かかってます。トンデモアイデアで突っ切る系の映画ではありますが、キャラがそれなりにみんな立っているし、やっぱり豪華なのでそれなりに楽しめます。

【70】

 

「雪山の絆(NETFLXオリジナル映画)」

 かのアンデス飛行機墜落事故を映像化した、バヨナ監督渾身の1本。「生きてこそ」で同じ題材を映画してますが、こちらの方がリアルで繊細で強烈です。この事故だとどうしてもかの事がピックアップされがちですが、今回はそこも極冷静というか非常にフラットな目線で描いており、総じて真摯な目線で生存者たちを描こうとする姿勢が感動的でした。

【75】

 

「呪呪呪 死者をあやつるもの」

 なかなか豪快かつおバカなオカルトゾンビもの。TVシリーズの映画化らしいですがまあそこまで違和感は無し。エンタメとしては十分楽しめます。

【60】

 

「ボーはおそれている」

  昨今ここまでレビューに困る映画があったであろうか。「ミッドサマー」「へレディタリー」の鬼畜変態監督アリ・アスターの極私的(多分)地獄めぐりスリラー(ぽいもの)。マザコン気質の臆病中年男性が、急死した母親のために帰省する旅路を描いたというのがあらすじだけれど、とにもかくにも異質・異様・不愉快・不快。全ての要素が人をマイナスの気分にさせるもので出来ている世界観なので、とにかく疲労感が半端ない。圧倒的理不尽や悪意に、ただただウロウロうろたえまくってるだけのボーはもちろん、それぞれが全て負のカリカチュアにデコレーションされたキャラたちや、厭味を煽るためだけに演出された数々のシーンや美術が、とにかくヅーンと腹の底に溜まって行きます。しかもそれが179分。完全なる確信犯であるこの奇妙過ぎる難解さはある意味観る拷問。退屈という意味ではない、感情の拷問のような映画。解釈というか、物語を理解しようと考えた時点で感じるその底意地の悪さがこの映画の真骨頂なのです。ヒントを本当にたくさん散りばめているので、解釈や考察はいくらでも出来るし、そういう鑑賞の仕方を嬉々としてやっている某サイトみたいなのもアリなんだろうけれど、個人的にはあくまでアリ・アスターの意地悪さを堪能する映画だと感じ、また堪能させていただきました。ただ正直かなりの苦行でした(笑)。

【75】

 

「ロード・オブ・モンスターズ」

みんな大好きアサイラム産ばちもん映画。期待通りのアクセル全開で突っ走る張りぼて軽トラ映画。

【55】

 

「スパイダー・シティ」

 BどころかZにもなれないW級のすやる気ゼロなすっとこ映画。せめてCG蜘蛛さんに影くらいはつけてあげましょう。

【40】

 

□「クロノス 記憶の転送」

 壮大っぽい話が一件のおうちの中だけで展開されるザ・C級映画。大学の卒業制作でありそうな映画でした。

【50】

 

「ワーニング」

 結構風刺を聞かせた感じで色々ごまかしている終末映画。それなりの人達が出てるのでそれなりのクオリティはあります。

【55】

 

「ダム・マネー ウォール街を狙え!」

  なんだか地味にヒットしてるような本作。確かに我々一般人の溜飲を下げるような痛快マネームービーでありました。

 SNSを通じて団結した個人投資家たちが金融マーケットを席巻し、社会現象となった「ゲームストップ株騒動」を映画化したいわゆる実話ものなのですが、実際エンタメとして非常に良く出来たお話であります。ウォール街の大富豪たちを徹底して悪役にし、なけなしのお金でささやかな幸せを得ようとするいわゆる格差の下側(それぞれ事情が異なる人々がぞれぞれの代表として登場)の人々を正義の味方的な目線で描いているのはコテコテの王道だけれどやっぱり素敵。ひねくれようと思えばいくらでもひねくれ目線になれますが(実際金儲けのお話なんで抵抗が無い訳ではない)、ここは素直に興奮・感動してしまいました。SNSで期せずして時代の寵児となっていき人生流転しまくりの株オタクである主人公の、カッコよさと気持ち悪さの絶妙なバランスはポール・ダノの真骨頂。繊細さとキモさの中しっかり感情移入させるその演技はさすがの一言。市井の人々も絶妙なキャラ立ちでなかなかに高度な映画でした。何気に豪華キャストなのもポイント高し。

【75】

 

「梟 フクロウ」

 17世紀の朝鮮王朝を舞台にした、スリルとサスペンスに満ちた緊張感たっぷりのサスペンススリラー。

 盲目の天才鍼医ギョンスは病の弟を救うため、誰にも言えない秘密を抱えながら宮廷で働いている。ある夜、ギョンスは王の子の死を“目撃”してしまったことで、おぞましい真実に直面する事態に。追われる身となった彼は、朝日が昇るまでという限られた時間のなか、謎を暴くため闇を駆けるが…(映画.comより)

 これの種本は結構有名なお話らしく、ストーリーの展開も良く知られているそう。なので日本で言うところの歴史小説というか大河ドラマ的時代劇な歴史ミステリーと言った趣。「歴史の裏側でこんなドラマが!」的なお話は好みなので、そういう意味でも結構楽しめました。

 ”盲目の天才鍼医”という設定を最大現活用したストーリーは骨太かつ緻密。まあある重要な秘密があって、「それは卑怯でしょ」っていう気もしないではないですが、そこはまあご愛敬。描きたいのは腐敗・堕落した権力の怖さと虐げられた人々の生き様なので、そういう意味では非常に胸に迫る映画でした。サスペンス描写や緊迫感はレベルが高く、役者たちの熱演(これはちょっとやりすぎの方々もいらっしゃってちょっと興ざめした感も)もあり、娯楽作として非常に完成度の高い映画でした。

 まあラストの展開はちょっとご都合主義的なところもありますが、そこはエンタメとしてのサービスって事で。

【75】

 

「マルチバース」

 これも卒業制作みたいな映画。成り上がってやるぜ的な野望が見え隠れしてるのが微笑ましい。

【55】

 

「ネクスト・ゴール・ウィンズ」

 世界最弱のチームがワールドカップ予選で起こした奇跡を描いた、癒し系スポ魂コメディ。タイカ・ワイティティという事で奇抜でヘンテコな期待したのですが、内容的にはよく言えば王道、悪く言えば普通のコメディ映画でした。いや別に悪口でもなんでもなく、こういう当たり前に楽しめる普通の映画って最近ほんとになかったので、ある種新鮮でさえありました。米領サモアのサッカー代表チームの軌跡を描いたドキュメンタリーを元にした映画なのですが、ニュージーランド出身で自身のルーツにも近いワイティティさんのポリネシア圏文化に対する理解と愛情を全面に表現するにはピッタリな題材。勝負の世界で生きるカリカリゴリゴリスパルタ白人コーチを通して、カルチャーギャップギャグからの癒しと成長をいかにもザ・王道な展開で安心して見ていられるのはワイティティさんの奇抜だけど基本に忠実な演出のおかげ。そのあたりはさすがに認められた監督だなあという印象です。

 サッカーシーンのいい加減さ(実話が元でこのギャグ寄りすぎはどうなんでしょう)や、登場人物の薄っぺらさ(まあこれはこういう映画ならありなのですが)は置いておいて、とりあえずこの映画はこういうスタンス、こういう軽さで正解。ポリネシアの羽毛布団のようなホンワカとした空気に癒される(いやもちろんそんなハッピーなだけでは無いですが。特にコーチの人生全く救われてませんし。というか監督興味無いのバレバレです。)ヒーリングコメディでした。

【70】

 

「マダム・ウェブ」

 どうやらソニー産スパイダーバースはもうヤバいという事が確定してしまった感のある駄作。昨今稀に見るすべてがダメな駄作らしい駄作でした。

 ストーリー云々は置いておいて、とにかく全てがいい加減というかめちゃくちゃ。シナリオは破綻しまくり(例:指名手配犯の一般人主人公が次のシーンでは普通に海外にいる)、役者はやる気無し(例:ダコダ・ファニングの演技プランがめちゃくちゃで多重人格並みに性格が違う)、演出はわかりづらい癖にやたら仰々しい、何より現場の混乱がそのまま映画に出てしまっているのが一番ダメ。「多分これはほんとはこうだったんだろうなあ」とか「きっとこれは後付けなんだろうなあ」なんてシーンのてんこ盛りで、ある意味間違い探し的な楽しみ方は出来ました。そもそもソニーがスパイダーバースに対して、さしたるビジョンも愛も無くただ作っとけばいいんでしょ的なノリなのが一番ダメ(アニメがあんなに傑作なのは制作陣の愛の深さ故)。ケビン・ファイギまで巻き込んでなんとかしようとしているみたいだけだけれど、素直に権利を売った方が最終的には何倍も得をする気がするのですが。実際「ヴェノム」にしても「モービウス」にしてもMCUと比べてあまりにレベルが低いのはそういう巨大なオタク愛を持ったオタク属性の人がいないからなんだなあと思います。強引に自分の望みをかなえてしまう自己中なオタク精神にあふれた人が。MCU本家もヤバい空気が出てきてる昨今、こんな映画を出してしまったソニー。次の「クレイブン…」と「ヴェノム」でよっぽどうまくやらないと真面目にMCU全体の崩壊につながると心配になりました。

【55】

 

「伯爵 (NETFLXオリジナル映画)」

  下世話で卑怯、老獪かつ狡猾で、好色の孤独な老人という、いかにも人間らしい吸血鬼の独裁者がおりなす、毒々しくも美しいダークファンタジー。南米チリの政治にはとんと弱いので政治的な暗喩や皮肉があまり理解できなかったのが悔しいのですが、それでも250年を生きてきた吸血鬼独裁者の最低な生き様には怒りや呆れを通り越して哀れみさえ感じてしまいます。生きる事につかれた独裁者が、若い娘(この子の厚顔無恥で純粋な悪意がものすごく魅力的)の修道女の虜になってからの意思や行動が、現代の(主に日本の)界隈でよく見られる老人たちそのままなのが恐ろしいやら滑稽やら。そんな哀れな生き物たちを高所から眺める映画的視点がなんとも絶妙なユーモアを醸し出していて、なるほど名匠という出来でした。

 クライマックス近辺で登場する特別ゲストに苦笑いしつつ、南米チリの、何とも言えない微妙な歴史的立場が垣間見える、そんな知的かつブラックな怪作でした。

【75】

 

「コヴェナント 約束の救出」

 変化球で軽妙なエンタメ映画の作り手という印象が強いガイ・リッチー監督の意外や意外、骨太戦争ドラマ。アフガニスタン問題とアフガン人通訳のドキュメンタリーに着想を得たオリジナル脚本という、なかなかに気合の入った企画で、映画自体もそれに合わせたリアルかつ感涙必至の力作でした。

 2018年、アフガニスタン。タリバンの武器や爆弾の隠し場所を探す部隊を率いる米軍曹長ジョン・キンリーは、優秀なアフガン人通訳アーメッドを雇う。キンリーの部隊はタリバンの爆発物製造工場を突き止めるが、大量の兵を送り込まれキンリーとアーメッド以外は全滅してしまう。キンリーも瀕死の重傷を負ったもののアーメッドに救出され、アメリカで待つ家族のもとへ無事帰還を果たす。しかし自分を助けたためにアーメッドがタリバンに狙われていることを知ったキンリーは、彼を救うため再びアフガニスタンへ向かう…(映画.comより)

 映画は前半、キンリーの舞台が全滅し、生き残った2人の脱出行にかなり力点が置かれていて、後半部分のアフガン救出劇が結構シンプルになっているなどバランス的にはどうなんだろうというところもあるけれど、裏を返せば裏切り者と忌み嫌われる通訳達が、何故その道を選ばざるをえなかったのか(何故そこまでして助けるのか)の理由、それによってアフガニスタンという国の有り様を描く事に重点を置いたということなのでしょう。戦争アクションとしてもリアルかつ凄惨なのでミリタリー好きにもおすすめなのですが、やはりこの通訳のキャラが出色の出来。演じたダール・サリムの無骨だけれど強い意思を感じさせる面構えがこの映画の全てなのです。

 正直なところ、アメリカ礼賛なところも無きにしも非ず、ところどころ引っかかる部分もあるのですが、ここは素直に兵士と通訳の全てを超えた友情ものとして観るのが正解です。

【75】

 

「落下の解剖学」

 やたらめったら評価の高い法廷ミステリーと思いきや、男と女、夫婦や家族のイヤーなリアルを忖度なく描いてしまった全人類耳が痛い、ある意味めちゃくちゃ怖いホラー映画。

 成功した女流作家の夫が転落死した事から始まる物語は、犯人として起訴された妻の裁判と、唯一の目撃者である盲目の子供の心模様を描いていくのですが、この夫も妻がまあ嫌なやつ。自尊心とプライドが強く、成功した妻に嫉妬する夫、自分の都合のいいように現実を解釈し、その事に無自覚かつ自己肯定感が半端ない自分大好き妻。仲睦まじいと思われていた夫婦の秘密が法廷でガンガン暴かれていくわけですが、それがまあリアルというか「こういう人いるわあ」なお話ばかり。それがよくあるパターンとか言うのでは無くて、この手の映画では共感のためにドラマチックに仕立て上げる部分を、あえて突き放すというか神目線で描いているものだから、胸が痛いというかイヤーな気持ちになるばかり。特にクライマックス近辺の夫婦喧嘩の、リアルすぎるが故の異世界(であってほしい)のような感覚は、どこぞのホラーなんかよりよっぽど恐ろしかったです。

 法廷ドラマとしては、あえて反対の事ばかりやっているので、ミステリーとしては到底納得出来ないのですが(法より感情ってどうなのよって感じです)、それは確信犯なのでお門違い。男と女が、決して相容れないという事をここまで断定してしまう映画はまあ初めてでした。流石に今年のアカデミー脚本賞、納得です。

【75】

 

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