2020年12月鑑賞映画ひとことレビュー
12月の初見鑑賞本数は35本。相変わらずのVODでの乱読ならぬ乱鑑。
ではでは。今回も劇場鑑賞を。
「Mank マンク」
NETFLIXオリジナルの話題作を一足先に劇場で鑑賞。これ、劇場で観ないと面白さ2割減の映画かと思いました。ただこの企画がいかに人気監督といえど劇場映画として製作可能かと言われるとなかなかに難しいとも言えるので、なかなか悩ましいところではありますが、逆に言えばだからこそ日の目を見られるというところもあるので、ほんと作家にはいい時代なのかもしれません。で、映画史上最強の映画と認知されている「市民ケーン」製作の裏側を描いた実話ベースのこの映画、監督の趣味(才気では無いかな)爆発のなかなかに一筋縄ではいかない人間ドラマでした。稀代の天才と現代の王として君臨する超権力者の間を飄々を泳ぎつつ、時代の流れや権力に逆らおうと奮闘する道化者の生き様を、超絶映像と複雑極まりない、かつ愛情あふれるシナリオを、超テクニックと粘り強すぎる完璧主義演出で描いたフィンチャー一世一代の傑作…とまではいかないけれど、そんなフィンチャーの愛を存分に堪能できる映画でした。魑魅魍魎蠢くハリウッド黄金期の目眩く王宮のような絢爛さと活気に満ち溢れた雰囲気と、色と酒とよくに塗れた背徳感が素晴らしいバランスでブレンドされた世界の中で、信念(そこまでかっこいいものじゃあなく意地って感じですが)に基づいて行動するマンクのカッコいい事。権力に屈せず、自分の信念を貫こうと奮闘するマンクはそのままフィンチャーの理想像なのでしょう。ゲイリー・オールドマンも久々得意技のアウトローを嬉々として演じていて、総じて全員が作りたいものを作りたいように作る喜びに溢れているのが好感度大でした。個人的にはそのこだわり抜いた「市民ケーン」模倣(というのはちょっと違うけれど)映像は乗れなかったけれど(何というかこの映画でのそのチョイスの意味がわかるけれど、その当時の人間ドラマとして感じたかったっていうのが正直なところで、そういう意味ではこの映像設計は邪魔かなと)、そんな余計な(?)こだわりもまたフィンチャー(の割には画面サイズが違ったりする笑)っぽい、佳作かと思います。
【75】
「魔女がいっぱい」
ロアルト・ダールのシニカル児童文学を、ブラックな笑い大好きなゼメキスが監督したファンタジー。1960年代。ある豪華なホテルに若くおしゃれな女性たちがやって来る。彼女たちは、美しく邪悪な大魔女“グランド・ウィッチ”(アン・ハサウェイ)と世界中に潜む魔女たちだった。魔女は普段は人間として生活し、魔女だと気づいた人間を魔法で動物にしていた。大魔女は魔女たちを集め、ある邪悪な計画を実行しようとする。しかし、一人の少年がその計画を知ってしまう…(Yahoo映画より)とにかくアン・ハサウェイ!怖すぎ。普通でも顔のそれぞれの作りが大きすぎなのを神の絶妙な御技で美しさになっているのに、口裂け女にしてしまうのセンス…いやあさすがの悪人ゼメキス。実際魔女は全てモンスター以外の何者でも無いのがこの映画のキモで、そんな化け物キャラを嬉々として演じてしまうアン・ハサウェイの懐の深さというか茶目っけがこの映画の全て。正直正義の味方サイドの子供達とおばあちゃんはうるさかったりうざかったりするし、細かいギャグはほとんど滑っているし、見せ方的にも目新しいところが無いのだけれど、アン・ハサウェイをはじめとする魔女軍団のキャラが素晴らしすぎてどうでも良くなってしまいました。チョコレート工場で逃げに走ったバートンとは違い、ダールのシニカルかつブラックな展開をそのまま採用したゼメキスの性格の悪さもなかなかに楽しい、そんなヒネた子供達には最高の映画だと思います。
【70】
「燃ゆる女の肖像」
非常に評価の高いこの映画、それも納得の完成度が高すぎる至極の恋愛ドラマでした。18世紀のフランスを舞台に貴族の女性とその肖像画を依頼された女性画家の崇高なる恋愛。とにかく画家とモデルという設定が素晴らしい。肖像画を描くためにする事はモデルを観察する事。その”見る”という一歩的な行為が、それぞれの視線として絡み合い、やがて両方向への心の交流へとつながっていくその過程が、恐ろしいまでの繊細さと大胆さで描かれるそのセンス、テクニック。これはもう映画以外では出来ない表現方法。女性監督だからとかそういう次元ではない、圧倒的な演出力とストーリーテリングの巧みさは幾多の巨匠に勝るとも劣らない手腕。そんな演出に答えた主役2人の感情を抑えつつの目力のみで語り合う絶妙な表現は、演技を超えた感情の機微を見事に表現。女性しか登場しないこの物語はともすればジェンダー的な解釈にさらされる可能性もあるけれど、そういう(あえて)小さな観点では語りたくないほどの映画的興奮に満ち溢れています。厳格な自然環境が作り出す閉鎖的な神話世界のような舞台の中で、一時の夢でしか成就しえない悲恋であるが故のオアシスのような関係性がここまで官能的に、また美しく描かれた映画は本当に稀。18世紀の封建的な世界の中で結構直接的な描写で描かれる女性たちの心の内側とその悲しいい選択に、涙するしかない本当に至極の恋愛映画です。必見。
【80】
「ミッドナイト・スカイ」
一足お先に劇場鑑賞のNETFLIXオリジナル映画。久々のジョージ・クルーニー監督・主演映画っていうよりも久々の宇宙SF大作っていう観点での鑑賞となりました。孤独な科学者オーガスティン(ジョージ・クルーニー) は、地球滅亡の日がすぐそこまで迫っているというのに、北極から動こうとしなかった。一方、宇宙船の乗組員サリー(フェリシティ・ジョーンズ)は、任務終了にともなって地球に帰還しようとしていた。そんな中、オーガスティンはサリーたちを乗せた宇宙船が地球に戻るのを、どうにかして阻止しようとする…(Yahoo映画より)。うーん雰囲気はすごく良いのです。北極の厳しくも美しすぎる風景と宇宙空間の対比とか、やたら力の入りまくった宇宙船のデザインとか「ゼロ・グラビティ」なみのVFX(古いか)とか、そういう個々をみれば”これが月々〇〇円で観れるのか!”という感動しかないのですが、例によってジョージ・クルーニー、いかんせん真面目すぎ。とにかく長い。無駄が多い。例えば天文台から天文台への移動シーン。そんなとこにあんな大げさなドラマがこの映画に必要?それもものすごい力入った演出と予算を掛けてこんな流れを止めるようなシーンにやたらリアルさを出そうとしたり、宇宙船内部でクルーそれぞれの内面を表現するのは良いけれど、それだけにこんなに長く手をかけたシーンが必要?とか、いや真面目に全部やりたいのはわかるけれど、それをうまく取捨択一してこその映画監督じゃあないんでしょうかとずっと思ってしまってました。やたらデコレーションがすごいけど中身のない空虚なケーキ、そんな印象の映画でした。でもNETFLIXで観るには超贅沢な1本だとは思います。
【65】
「ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!」
もうとにかくこの3作目が完成して、しかも日本で公開された事自体が奇跡のような1本なので、それ以上何を望みましょうや。大傑作「ビル&テッド」シリーズまさかの29年ぶりの続編。それぞれ主役は50オーバー。なのに全く違和感無いってどういう事!?しかも相変わらずのバカっぷり。まさにエクセレント。今回は2人の子供(それぞれお互いの名前をつけてるのがまた…)登場でまたいい味出してるのですが、それよりも全く変わらない二人の愛されバカっぷりがもう最高に楽しくて…性格悪すぎ死神(この死神との仲違いのくだりがほんと最高にビル&テッドでした)はじめ脇役さんたちも29年ぶりのご本人登場という恐ろしいまでのアンチエイジング映画。実際バカ映画なんだけれど、実はタイムトラベルをこれほど上手に扱っている映画は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」くらいで結構知的なSFだったりするのだけれどそんな理論はどこへやら、ひたすらポジティブに過去を振り返らず進んでいく二人を愛さずにはいられない。まあ正直この二人に愛がない方にしてみればあまりにご都合でバカでどうしようもない映画かもしれないけれど、彼らにしてみればそれは最高のほめ言葉。もはや大物のキアヌが一番生き生きして魅力的なのはやっぱりテッドだと再確認。最高の相棒アレックス・ウィンター(しかしこの人も変わらないなあ)と共に本当に楽しそうなので観てるこっちも楽しまずにはいられません。まあ今回監督さんが結構な腕前の方なのでキレイにまとまりすぎて前2作ほどのパワーが無かったのは贅沢な悩みですが、クライマックスの感動はやっぱりビル&テッドの真骨頂。こんな時代だからこそのストレートすぎるメッセージ、しっかりと受け止めました(泣)
【75】
「ワンダーウーマン19894」
延期に延期を重ね満を辞しての公開となった「ワンダーウーマン」シリーズ第2作。やっぱりI-MAXで観るハリウッド大作は楽しい事を再確認。とりあえずそれだけでもう感謝感激です。スミソニアン博物館に勤める、考古学者のダイアナ(ガル・ガドット)には、最強の戦士「ワンダーウーマン」というもう一つの顔があった。1984年、禁断の力を入手した実業家・マックス(ペドロ・パスカル)のたくらみにより、世界のバランスがたちまち崩れ、人類は滅亡の危機に陥る。人並み外れたスーパーパワーの持ち主であるワンダーウーマンは、マックスが作り上げた謎の敵チーターに一人で立ち向かう…(Yahoo映画より)。今回はダイアナがワンダーウーマンというヒーローへ成長する過程を描いた、いわば「ワンダーウーマン成長譚」。ライミ版スパイダーマン2のスケールアップバージョンとでも言う感じのストーリーとなっております。なのでダイアナの精神的成長を描くことがメインとなるわけですが、正直その部分が結構退屈。必要なストーリーとはいえもう少し上手のに絡められなかったかなあとは思いました。なんというか、全てが旨く絡んでいないというか、成長譚という背骨に肥大過ぎた筋肉はついているような、そんなバランスの悪さ。ヴィランのマックスの陰謀をやたらスケールを大きくする必要性が果たしてあったのかが一番の疑問。表裏であるチーターのキャラの出来が素晴らしいだけに勿体無い気がしました。まあ大作ゆえの問題点とも言えるけれど、ダイアナが空を飛ぶことも含め、観客へのサービス精神というか媚が見えたような気がしたのはどうにもマイナスなような気がします。とはいえそこまで駄目な映画では勿論無く、1984年を舞台にしたことで生まれるギャップギャグとか、実際スケールでか過ぎ、身体張りまくりの超絶アクションはものすごく楽しめたし、とにかく儲け役のクリス・パインの王子様っぷりが素晴らしすぎ。成長には不可欠な要素だったとはいえ、その展開はもはや卑怯の域。この映画のヒロイン(笑)として最高のキャラでした。まあ色々腑に落ちない点はありましたが、最初に言ったようにハリウッドのバリバリアクション大作をI-MAXで体感できるその喜び。それだけでもう充分満足でした。
【70】
「ソング・トゥ・ソング」
テレンス・マリック教授の最新作。っていうかこれ2016年製作なので最新作って分けじゃあ無いんですが、相変わらずのマリック節炸裂の哲学論文でした。音楽業界に絡む4人の男女の人生の経路を、超絶映像美と繋がり時系列無視の鬼リズム編集で語りつつ、全編詩と哲学的な独り言で彩った相変わらずのマリック節。実際ストーリーというかドラマ自体ははちゃめちゃ編集のおかげではっきり言ってほとんど理解不能。考えるな、感じろを地で行く映画となっています。なのでストーリー重視の人間にはかなり苦痛、というか正直退屈。アメリカのミュージックシーンを彩った名曲達が全編を彩っているらしいのだが、そんな歴史に疎い自分にはさっぱり。これはもう映画云々の問題じゃあ無く、教養が無い自分が悪いとマリック教授に叱られているみたいで切なくなりました。ファスベンダー、ゴズリング、ルーニー・マーラー、ナタリー・ポートマンと豪華すぎるキャスト陣を使っているので彼らの演技によって辛うじて何が起こっているかわかるレベルなストーリーを追おうとすると、ひたすら自省と後悔と憐憫の独り言を聞かされるという、人によっては地獄のような2時間。さすが教授、難しい問題を出してきます。ここまで観る人を試す映画はそうは無いので、そういう意味で観るような映画かと思います。
【65】
その他の鑑賞映画
「ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち」
ジェシー・アイゼンバーグ十八番の安定感。後はコスプレショー【60】
「モンスター・イン・クローゼット」トロマ製C級ホラーの良心【50】
「コリーニ事件」原作と比べるとどうにもウェットで…【70】
「バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所」
トビー・ジョーンズのアイドル映画【50】
「ザ・カリバル・クラブ」色々勿体無い【50】
「セガ vs任天堂」
セガの独りよがりな思い上がりがめちゃ気持ち悪くて不快すぎ【50】
「サリュート7」ロシアの本気はスケールがでかい【65】
「ブラック・クリスマス」
「暗闇にベルが鳴る」のリメイクって言われるまで気づかなかった【50】
「UNIT7 ユニット7 麻薬取締第七班」硬派でなかなか【70】
「ミッドナイト・アフター」ひねりすぎが勿体無いけど意欲作【65】
「ホワイト・バレット」ジョニー・トー安定の職人芸【70】
「サウスバウンド(2015)」捻りが聞いててなかなか楽しい【65】
「ザ・モンスター(2016)」
邦題とは印象がだいぶ違うアメリカDQN悲劇【60】
「メッセンジャー(2017)」C級【50】
「封神伝奇 バトル・オブ・ゴッド」
中国のこの手の映画ってどうしてこんなにつまらないのだろう…【50】
「アパートメント:143」悪く無いけど食傷気味【55】
「ホワイト・スペース」C級【50】
「15年後のラブソング」
登場人物全員がクズでダメというおそろし恋愛映画【65】
「エンド・オブ・ザ・フューチャー」頑張ってるC級映画【65】
「ステキな金縛り」深津絵里だけをひたすら堪能する映画【50】
「ヘルフィールド ナチスの戦城」
拾い物。なかなかあり得ない捻り方が気持ちいい驚き【65】
「ブレグジット」
EU離脱を巡る暴露話。相変わらずのカンバーバッチ+頭髪…驚【60】
「ニノ国」ジブリもどきの気持ち悪いコピー。声優って大事【50】
「恋と嘘」伝統芸安定のつまらなさ【50】
「KRISTY クリスティ」悪くは無いけれどもう少し突き抜ければ…【50】
「放射能X」古典の安定感。【65】
「バッドアス・モンスター・キラー」
ガンバってるのはわかるけれど自主映画以下…【40】
「ラスト・エクソシズム」
気持ち悪さはA級。それ以外はC級【50】
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