【書籍解説】
プロサッカー監督の仕事
非カリスマ型マネジメントの極意
森保一
現サッカー日本代表、森保一監督が、サンフレッチェ広島を率いていた当時に出版された書籍です。本書は以下のように全6章から構成されています。
第1章 サッカー監督の仕事
第2章 チームマネジメントの極意
第3章 選手の見方
第4章 私のサッカー観
第5章 連覇
第6章 サンフレッチェ広島の未来
全体としては、2012 2013シーズン、2連覇を果たしたサンフレッチェ広島を率いた森保監督が、どのようにチームを作り上げていったか、また監督が大切にしている哲学について書かれています。
サッカー関係者だけでなく、ビジネスにおいても部下の育成、チームマネジメント等参考になる点が多い内容となっております。
今回は5つのポイントに絞って、私なりにまとめてみましたので、ご一読ください。
①基本を徹底させる
〜100%の力を出せているか〜
チームで取り組む際に最も大切なこと、それはチームのために100%全力を尽くすことです。
『これをやろうと決めたら、そこに全員が個々の力を100%注ぐこと。チームとしてやりたいことを遂行するために、互いに支え合い、連携・連動すること。より簡潔に言うなら、「個人の責任」と「チームワーク」。』
そのため、森保監督は『チームを批判する者』『チームの輪を乱す者』は許しません。時には厳しく、耳の痛いことも伝えながらチームを作り上げていきます。
また、たとえ負けたとしても、
『今日は負けたけど、自分たちの力を出し切ったのだから仕方がない』
そう思えるかどうかを大事にしますし、
選手を獲得する際も
『1人で試合を動かしてくれるスーパーな選手でない限りは、「チームの一員として献身的にプレーできる」キャラクターやパーソナリティを持った選手を探してほしい。』
と森保監督は要望します。
皆さんのチームは今打ち込んでいることに100%の力を出せているでしょうか。負けた時に、全力を出し切ったと胸を張って言えるでしょうか。
もし、できていないなら、まずはその基本に立ち帰るべきなのかもしれません。
②リーダーは目立たなくていい
『僕の中では、試合に勝って、チームがうまく回っているときには、自分が目立つ必要はないと思っています。』
監督や上司、チームをまとめる役割を担うと、何かを言わなければならないのではないか、というプレッシャーを感じることがあります。
また、自分の理想にカリスマ的なリーダー像があると、チームを引っ張っていくために自分が先頭に立たなくては、という思いになりがちです。
しかし、森保監督のリーダー像は異なります。
『監督である僕は「羊飼い」ではなく「牧羊犬」なのではないかと思っています。選手たちを「羊」にたとえたとして、散り散りになった羊たちをどこかひとつの方向に向かわせなければいけないとします。その場合、僕は羊飼いのように群れを上から統率して導くというよりも、同じ目線でワンワンと吠えて「こっちに行くんだぞ」と仕向ける牧羊犬。指導者として、そういうタイプではないかと自認しています。』
もちろん、厳しい言葉を言わなくてはならない時もあるかもしれません。しかし、チームと同じ目線に立ち、自分も同じ目標に向かって進むチームの一員なんだという意識が、まとまりのある集団を作り上げるのでしょう。
③観る
『僕が選手にしてあげられること、してあげないといけないことは、何よりもまず「観ること」だと思っています。 自分が何か働きかけて変えてあげるというよりも、とにかく単純にプレーを観てあげる。そこから評価や指導につながっていくわけですが、まずは観てあげないことには、選手に何も言ってあげられません。 チームに在籍する全選手を「観る」ことは、実はそれほど簡単ではありません。プロチームという環境では、試合に絡めている「主力組」と、絡めていない「サブ組」の選手とにどうしても分かれてきてしまいます。それでも、時間が許す限りは極力全員を観る。それは僕にできる最低限のことであり、一番やらなければいけないことだと思っています。』
選手の誰もが試合に出たいと思っています。しかし、出られなかったとしても正当な評価を受けた上で、納得して
『今回は出られなかった。』
と思いたいものです。観られてもいないのにマイナスの評価をされたとしたら、その人はやる気をどんどん失ってしまうでしょう。
トップに立つ者にとって最も大切なこと、それは『あなたのことを観てるよ』というメッセージが伝わることなのです。
④任せる 〜責任は自分が取るという気概〜
森保監督は、スタッフ全体でチームを観て、意見交換をしながらチームを作っていくという方針を持っています。しかし、最終的な責任は監督が取るというスタンスです。そのため、本書でも責任という言葉が多く登場します。
『僕のポリシーとして、選手にもコーチにも、最初は失敗してもいいから必ずトライをさせます。失敗があってこそ、次への改善やステップアップができる。そこは失敗も含めて僕の責任だと思って、やってもらいます。』
『結果がどうなったとしても、自分の責任なのです。そうでないと、コーチは思い切りよく仕事ができないし、逆に「コーチは選手と喋らず、すべて自分のところに話を持ってきてくれ」ということになってしまいます。もちろん、報告はしてもらいますが、基本的にはそのとき自分が思ったことを伝えてもらっていいというようにしています。』
森保監督は、そのために日頃からスタッフとのコミュニケーションを欠かさないそうです。
もしトップの人間が1から10まで決めてしまうと、チームはただ言われたことをやる集団か、意見があっても萎縮して言えず、結局陰口を叩くだけになってしまいます。
任せられることで、責任感が生まれ、チームのために貢献しようと思えるものです。
⑤自然体でいる
2013シーズン、川崎フロンターレ戦のハーフタイム中、森保監督は0-2ビハインドのチームに対して発破をかけましたが、その効果は出ずに敗けてしまいました、その時、むやみに怒ればいいわけではないということに気づきます。
『怒ったり、選手にプレッシャーをかけたりすれば何でもやれるわけではない。正しくチームや選手の状況を見極めた上で言葉をかけていくことの大切さを思い知りました。このことが基本的な考えとしてあるので、僕は言葉で雷を落として、怒りを向ける形で選手を奮い立たせようとは思っていません。』
『「監督が雷を落としたから頑張れる」「強い口調でプレッシャーをかけたからやれるようになった」という選手もいるとは思いますが、そんな選手ばかりでは自立した集団とは言えません。特別な声がけをしなくても、選手が自分でモチベーションを上げられるようにならないといけない。』
確かに、今の日本代表を見ていると、全く萎縮していないですし、皆が自然とチームのために戦っているように見えます。
また、以下のようにも述べられています。
『プロとして戦っていれば、選手にもスタッフにも、いろいろなプレッシャーがかかってきます。しかし、そこで僕ら監督やコーチが気難しい顔をしてグラウンドに立っていたら、選手たちは思い切ったプレーができないでしょう。だからこそ、厳しく仕事をする中でも笑顔を忘れずにやっていこうということは、コーチングスタッフにも日頃からお願いしています。』
この言葉からも、森保監督が選手だけでなく、スタッフも含めたチーム全員が100%、の力を発揮できるように努めていることが伺い知れます。
役職、肩書きがついたりすると、ついついそのような人物になろうと自分を偽りがちです。しかし、チームの力を引き出すためには、自然体でいることが必要なのです。
いかがだったでしょうか。本書にある内容をギュッとまとめて5つのポイント
① 100%の力を出す
②リーダーは目立たなくていい
③任せる
④観る
⑤自然体でいる
を、お伝えさせていただきました。
ドイツを再び破った日本、その強さの秘訣は個々の能力もさることながら、チームの力を100%引き出す、森保監督の巧みなマネジメント術にあるのではないでしょうか。