台湾華語の2大スター“有”と“會”  その1 “有” | 台湾華語と台湾語、 ときどき台湾ひとり旅

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Liziさんの記事を読んだあと、台湾映画『對面的女孩殺過來(ロマンス狂想曲)』を見に行ったら主人公の阿正が、

「我有説嗎? 
有嗎?
(オレそんなこと言った?そう?)

というのを聞いて台湾華語の2大スターの一つ“有”について、もう一度整理してみようと思い、昔の記事を整理してまとめてみる。


1)
助動詞化した有
 あれは11年前。台湾のことを今ほど知らなかったとき。ある会合で台湾からの客人に“我記得,你去年有来,她也有来。”(「あなた去年も来てたでしょ。彼女もね。」)と言われてハッとした。台湾では“有”をこんな風に使うと知識としては知っていたが、でも実際直接ガッツリ言われたのは初めてで、なんかドキドキしたのだった。(今では自分も平気で使います。)

台湾での由来は台湾語と考えてほぼ間違いない。 

  你有食無? (lí ū tsia̍h bô ?)
        ――― 有食! (ū tsia̍h!)
  ご飯食べた?――― 食べたよ!

你去年有来。」などの“有V”表現(助動詞化した“有”)は台湾国語」の一つの大きな特徴であるとされてきた。だが、中国の南方の言語(方言)では同様の言い方をするものも多いので、“有V”の使用は台湾だけの現象とは限らないのも事実。また、最近は両岸の言語的交流も密なので、大陸との境はかなりあいまい。“有V”もヤングの中には使う人もいるという(オトナは苦々しく思っていたりする)。今のところ普通話の教科書的にはアウトなはずだが、近いうちに規範的な表現になる可能性もないことはない。


2)“有” と “要”で習慣的動作と近い未来の動作を区別する
 普通話では助動詞などを用いて習慣的な動作と近い未来の動作を区別することは基本的にない。例えば習慣を尋ねる「あなたはたばこを吸いますか」も、今吸うつもりがあるかを確認する「あなたはたばこを吸いますか」も、“你抽煙嗎?”或いは“你抽不抽煙?” でまかなえる。

 台湾華語ではこの二つを区別する。習慣を尋ねるときは、上記1)で書いた助動詞としての“有”を使う。

  你有沒有抽煙?
    あなたってタバコを吸うの?

それでもって、近い未来の動作を表すときは助動詞“要”を使うのである。

  你要不要抽煙?
  タバコ、吸う?

このあたりも多分台湾語の影響が大きいと思われる。

  你有食薰無?(Lí ū tsia̍h-hun bô?)
  あなたってタバコを吸うの?

   
你欲食薰無? (Lí beh tsia̍h-hun bô?)
  タバコ、吸う?

3)「彼はいますか?」の“他有在嗎?”
 「彼はいますか?」は、普通話の教科書的には“他在嗎?”である。なのに台湾ではよく“他有在嗎?”と言ってしまうのか。「彼は今日はいませんよ」は、“他今天不在。”でいいはずなのに、どうして“他今天没有在。”になるのか。
台湾語の文法がわかればそんな疑問もスッキリ解決する。

台湾語の“有”にはとにかくいろんな働きがあるのだが、強調や確認の意味もあるというのは、以前書いた。だから
動詞の前にだって、助動詞の前にだって、形容詞の前(次の4)で説明)にだって、そして副詞の前にだって、持ってこれるのである。

進行をあらわす副詞の前にくる“有”には、
動作が正に進行し或いは持続していることを強調する働きがある(→台湾語の文法⑭アスペクト3)進行相と持続相)例えば「彼は宿題をやっているよ」は台湾語では「做功課。」と言うが、進行を表す副詞“”の前に“有”をつけると、「ちゃんと」のニュアンスが出る。
做功課。彼は宿題(ちゃんと)やってるよ。
そして「彼はいますか?いるんですか?」は
 伊有佇咧無? (I ū tī-leh bô?)
 彼はいますか?

佇咧tī-leh )”は華語の“在”(「いる、ある」を表すときには動詞だが、動詞の前につくのは進行を表す副詞である)にあたるので、台湾華語では、他有在嗎?”になるというわけだ。

4)形容詞の前にくる“有”と“

 最後に、形容詞につく“有”と“會”について。例えば“她有漂亮嗎?”「彼女ってきれい?」と“會痛嗎?”「痛い?」(→台湾華語「助動詞「會」のトクベツな使い方」も見てね)のような言い方。両方とも普通話の教科書的な言い方ではまず使わない。台湾に興味がない中国語学習者にとっては違和感たっぷりの表現である。台湾でもさすがに教科書には載っていないが、巷ではふつうに使われている。

で、これもどちらとも台湾語の影響というのが通説。

まず、台湾語の形容詞の特徴として、確認の意味を強調するときに形容詞の前に“有(ū)”がつくというのがある。「彼女ってきれいなんですか?」みたいなニュアンスか。そういうときには 

  美無?(I ū suí--bô )
  彼女ってきれいなの?

となる。形容詞につく“會”については次の通り。

台湾語の形容詞は、形容詞の意味によって疑問文の形が違ってくる。(→
台湾語の助動詞“會”) 普通の形容詞の場合、例えば「あなたは元気ですか?」などの形容詞疑問文は“你好無?(Lí hó --bô)” のようになり、ま、普通話の構文とあまり変わらない。ところが話者にとってネガティブな意味をもつときには、形容詞の前に“會(ē)”がつくのである。例えば “你痛袂? (Lí ē thiànn bē?)” 「痛いですか?」などのように。「話者にとって」ネガティブかどうかということが問題なので、同じ形容詞でも文脈によって“會”がついたりつかなかったりする。

そう、この台湾語の形容詞につく“會”と”有”が、
そのまま台湾華語の表現、“會痛嗎?”「痛い?」と、“有漂亮嗎?”「きれい?」になっているのである。なので台湾華語の場合も“會(huì)”がつくのは話者にとってネガティブな意味をもつ形容詞のことが多い(例外もある)。“有(yǒu)”がつくときはやはり確認のニュアンスがある。