2012年の台湾お正月映画で大人気だった『陣頭(tīn-thâu)』。セリフの半分以上が台湾語の、台湾語フリークにはたまらない映画である。
が、「陣頭」っていったい何?これがなかなか難しい。台湾語の先生にも30分以上かけて説明してもらったり、こんまえ台湾で買ってきた『一看就懂 台灣文化』をじっくり読んでみたりしたが、本当に複雑。何のためにやるのか。その起源は。どんな種類があって、そしていったいどんな組織なのか。とても即席勉強で簡単に把握できるような内容ではない。
でも映画の話を書くにあたって何の説明もなしにすますわけにはいかないので、かーーーんたんに、超かんたんにわかったことだけ発表。
一言で言うと「陣頭」とは、台湾のお寺(主に道教?)の「廟會」という、縁日やお祭りみたいなもののときに行われる太鼓や踊り等の伝統的パフォーマンス。神様に「扮装」して踊ったり街を練り歩いたりするのもこれだ。
『一看就懂 台灣文化』には、「台湾式行動劇場」という説明があって、なるほど!という感じ。お寺の前の広場やそれこそ街中でくりひろげられる民俗パフォーマンス。芝居あり歌あり太鼓あり楽器演奏あり、で、観客も楽しんでいるまさに「行動劇場」!
あとは台湾語の先生に教えてもらったのだが、「陣頭」はお芝居や楽器演奏などの静か目の「文陣」と、肉体を使った各種の技を繰り出す「武陣」に分かれるという。
映像や写真でよく目にするのは「武陣」の中の神様たち。「官将首」は鬼が神様になったもので、歯が出ていて武器の形がちょっと変わっているのが特徴。それに対し「八家将」は人間が神様になったもので、歯も出ていないし刀などの普通の武器を持っている。人間の2倍くらいの大きさの大型神様たちは「神將團」といい、「七爺」、「八爺」、「太子爺」などが有名だ。
その他の「武陣」は、女の神様たち「十二婆姐陣」、獅子舞のような「獅陣」、龍を表す「龍陣」、武術の演武のような「宋江陣」(Sòng-kang-tīn)などなど。
やばい。なかなか映画の話に行きつかないぞ。
で、その「陣頭」をテーマというか背景に、親子の愛情や友情を描いた映画、それが『陣頭』である。ので、やはり映画を見るなら「陣頭」のことについて少しは知っておいた方がより楽しめると思う。
この映画は実は、ある実話がもとになっている。台中の「九天民族技芸団」という、まあ、ひとつの「陣頭」グループの話である。1995年に不良少年たちを集めて設立された「九天」、台湾中を歩いて移動しながらその技を披露していく。最初はならずものの集まりみたいに冷ややかな目で見られていたが、次第に実力と真面目な活動が認められるようになって、2009年、2010年と2年連続で文化建設委員会の国家優秀演出団体賞というものをを受賞したという。
映画自体は娯楽映画なので、ふかーい感動を呼び起こす、といった類のものではないが、ライトに気楽に楽しめる。
主役は周渝民(ヴィック・チョウ)の『美味関係』にも出ていた柯有綸(アラン・コー)。 有名な俳優ブラッキー・コーの息子で、歌手としても活躍している。わたしは『ONE day』というアルバムを持っているが、なかなかハードなロック(ハードロック?)を聴かせてくれる。
なのだが、この映画の主役になぜ彼?という感は否めない。この映画、ホントにほとんど台湾語で進んでゆく台湾語映画なのだが、彼自身は台湾語は話せないのである。映画の中でも彼一人が「国語」。父親との葛藤、父親への反発心から台湾語を封印しているととらえられなくもないが、ちょっとやはり違和感が。
でもま、あまちゃんでも高校1年のときに初めて訪れて1年くらいしか岩手に住んでいないのにめっちゃなまっているあきちゃんや、逆に標準語で貫き通すあきちゃんママ(小泉今日子)とかもいるわけだし、まあ、いろんな背景、いろんな状況があるわけで、それは台湾でも同じなのだろう。逆にあの主人公を彼が演じたことで、台湾のめざす多元文化の発揚みたいなものを表現しようとしているのかもしれない・・・とも思う。
というわけで、最後、反発してきたとーちゃんに自分の気持ちをぶつける場面。そこはアラン・コー、がんばって台湾語。聞き取った結果は次回に!