黒実さんも実は被害者?
その一ヶ月後、新年度が始まると、黒実さんの子供は保育園を辞めて、近くの幼稚園に入り直しました。
あと1年で卒園だというのに。
そのことを、黒実さんは誰にも伝えていませんでした。
おそらく子供にも伝えてはいなかったのでしょう。
子供たちも誰もそのことを知らなかったのです。
幼稚園ということは、仕事も辞めてしまったのでしょうか?
ご夫婦が離婚されたとか別居されたということもないそうです。
休日にはご家族で出かけている姿を見かけたという人もいました。
わからないことだらけです。
結局、あの電話を最後に、緑子さんと黒実さんは一度も顔を合わすことはありませんでした。
その間、緑子さんは、”なぜ自分が広報になったのか?”。
その経緯を、ママたちに聞いて回りました。
事実は、こういうことでした。
役を決める前日に、黒実さんからみんなにこのような一斉メールが届いたそうです。
「パンジー会の会長などの役員は今まで係をやっていない人が優先でやる。この会合に欠席された場合は欠席裁判もあり得る(昨年の役員決めのとき、自分も欠席裁判で役員にされました)。この日を休む人は、あらかじめ、どの係になりたいのか教えてくれれば優先する」
しかし、このメールは緑子さんには届いていませんでした。
確かに緑子さんはパンジー会に入ってないので、届いてなくでも不自然ではありません。
でも、緑子さんは”特例”ということで役員にされました。
で、あれば、届いてなくてはおかしいのです。
故意なのか?
忘れただけなのか?
仮に、忘れていただけだったら、なぜ、黒実さんはあんなに頑なな態度で、逃げ回ったのでしょう?
緑子さんとしては、
「知っていたら、欠席裁判はいけないことだからやめようと言えたかもしれないのに残念です。子供の病気で参加できなかったとはいえ、そのメールさえ、きとんと届いていれば、なんとかなったかもしれない。後悔の想いが募ります」
そうおっしゃいます。
しかし、「欠席裁判をやめよう」と、言えたからといって、なんとかなったでしょうか?
メールさえ届いていれば、なんとかなったでしょうか?
他にも疑問は残ります。
黒実さんは、緑子さんに、いやな気持ちでも持っていたのでしょうか?
黒実さんは、欠席裁判をされたという自分と同じ想いを、緑子さんにも味わわせてあげたかったのでしょうか?
黒実さんは、自分の意見をはっきりと言い、態度を変えない緑子さんが気に入らなかったのでしょうか?
いまとなっては、なにもわかりません。
ただ、緑子さんは、こう思っていました。
嫌がらせをして、ばれたら辞める、逃げる、ママ友が存在する。
意味のわからない行動をするママ友が存在する。
つまり、
ママ友ってなんでもありなんだ。
”ウソだってなんだってあり”なんだ。
ここまでの話を聞いてわたしは思いました。
黒実さんは、欠席裁判で役員になったそうですから、これまでの1年間、かなりつらい思いをされたのでしょう。
そのうちに、ずっとパンジー会から逃げおおせている緑子さんに対して、一方的に嫉妬心や敵意を感じていたのかもしれません。
黒実さんは、すでに保育園から幼稚園に子供を転園させる決意を固めていたし、その手続きも済ませていた。
そして、最後に、自分にやられたことを、当日参加していない緑子さんに行うことで、保育園やパンジー会、ママ友に対する復讐としたのではないか。
だから、緑子さんからの一連の反応は想定内だった。
それに対して、一切答えないでいられる方法が、あのメールであり、ご主人をも共犯に仕立て上げた電話での会話だったのではないでしょうか。
黒実さんは、一流企業で働いていました。
人の話を聞くのが仕事です。
少なくとも、コミュニケーションのイロハはわかっておられる方です。
本当に頭がおかしくなったのではなければ、あのような対応は、やはり意図的だとしか、わたしには思えないのです。
まるで、ホラー映画のようですが、これは実際に起きた話です。
仮にそれが事実だとしら、そういう”復讐”は、最低の行為です。
B級ホラー映画の台本にもならない愚かな行為です。これだと、まったく救いようがない。
子供も救われません。
逃げることは、かまわない。仕方のないことだと思います。
でも、
”そういう復讐”はダメです。人を傷つける行為は絶対にダメです。
時間が経つと、自分自身がもっと傷つきます。その罪は拭えないし、傷も残ります。
つづく
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