反・愛の文法 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 わたしとあなたを動詞に変えて
 わたしがアナタして
 あなたがワタシするようなことができたなら
 それは素敵なハグになるのかもしれないけれど
 それでも何だか間違っているような気がしてしまう

 わたしがアナタになることや
 あなたがワタシになることなら
 それはきっと部屋か服を交換しただけで
 ほんとうのわたしやあなたがいなくなるに過ぎなくて
 
 わたしが欲しいあなたがわたしになって
 あなたが欲しいわたしがあなたになって
 自分をもう一人つくるなんて酷(ひど)すぎる
 わたしがわたしを手に入れて
 あなたがあなたを手に入れるだけなんて

 わたしという言葉一人称
 あなたという言葉二人称
 一人称はわたしではなく
 二人称はあなたではない
 それは誰かにわかってもらうための言葉に過ぎなくて

 ほんとうのわたしは「わたしは」なんて言わないし
 ほんとうのあなたは「あなたは」なんて呼びたくはない
 言葉を捨てて名前を捨てて
 いや捨てるとか捨てないとかのもっと前
 人称なんて考えない頃に戻って出会い直したら

 わたしたち
 もっと違った文法で話していたんじゃないのかな
 述べることもなく形容することもないままに
 ただ着飾らぬ裸のいのちとしてそのままに

 わたしがわたしであるままに
 あなたがあなたであるままに
 いや「あなた」や「わたし」である必要もない
 無名のいのちとして向き合っていたのなら