その花を | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある





 その花を僕は小綺麗な花屋の隅で見つけた

 ここに仕入れてからもう随分と時間が経っていたのだろう

 安い値が付けられていたのだけれど

 その花の明るい黄色が僕の目を惹きつけた

 近づけば何本かはもう首が折れそうになっていたし

 二本だけでもと思って触れたとき

 花びらは力なく落ちた


 でも僕はその色が好きになってしまっていたから

 仮に今ここですべてが散ったとしたら

 その花びらを一枚ずつ丁寧に紙に挟んで帰ろうと思っていた



 かろうじて二本を選んで

 それから緑のスイートピーを3本だけさっさと選んで


 花屋さんが言った

 これもう随分時間が経ってしまったので

 良かったら全部まとめて100円で如何でしょうか

 僕は一も二もなくその提案を受け入れる

 捨てられるかもしれないのなら

 この花は僕の花だと


 そうして

 もうすぐ散り落ちるかも知れない花のために

 ガラスの花瓶も買い求めたけれど

 それでも全部でワンコインにもならなかった


 それが枯れ落ちる寸前だったからではない

 安く売られたからでもない

 ただあの瞬間に出会っていたからだ


 飾りげのない投げ入れ方で

 花が喜んだかどうかはわからないけれど

 
 愛さざるをえない花というものがある

 束の間の時間であれ

 定かに抱きとめて咲かせておきたい花がある


 出会わなければ気づくこともなかっただろう

 この花たちに

 僕は盃を静かにあげて

 この夜を過ごす


 明日の朝の光まで

 かがやいていると僕は信じきる


 僕以外の誰の目にも止まらぬとしても

 僕は君たちを

 ここにとどめて

 虚しく崩折れることを許さない