雨音・夜 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 
 明かりを消した風呂の薄暗がりの

 湯船の中で

 少し疲れた筋肉が緩くなり

 湯が遥か遠く海辺の方にまで広がっていく気がする



 寒さが戻った夜の

 静かだが既に春に膨らんだ闇の中を

 さあさあと

 降る雨の軽く柔らかな音

 それからどこかの枝か軒から

 何秒かおきに落ちてくる雨滴が

 地面近くに広がった一枚の葉に落ちる

 ぱたり

 それもまた雨の音



 僕の頭蓋骨を抜けて

 脳髄を通り喉から肺腑に落ちる雨音は

 ショパンよりは穏やかだ

 それから

 僕は濡れた外の闇になる



 雨は雨粒なのか

 それとも長い水の一本の垂線



 このままその垂線に貫かれて



 死んでもいい

 そう何度か思っては考えなおす

 ずっと生きていようと


 
 この目に見えない垂線のなかで

 尚も僕が生きているのは何故なのか知るまでは




 不連続にぱたりと落ちる雨粒と

 真っ直ぐにつながって落ちてくる雨の糸の音とを

 僕はじっと闇の中で見比べるように聴く