梅を運んだもの | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 
 昨夕の春雷と風雨がよほどのことだったのか

 朝ベランダに梅の花

 吹き飛ばされてきたというか

 花ごともぎ取られて風に運ばれたのか

 幾つも飛来していた

 あの雨の中をかと不思議に思う

 手に取ればまだ梅の香り

 まさか鳥が運んできたわけでもないだろう

 そう思うのはときどきこの家には

 鳥が巣を作るからなのだ

 でも梅の花で巣を作る鳥はいないだろうと思う


 今朝は風はなく

 少し沖合は霞んでいるように見える



 春の知らせを

 嵐の中に届けたのはやはり風なのか

 それとも嵐の翌朝に鳥か誰かが


 わけもなく

 梅を運んできたのはどんな鳥だったのだろうと

 そんなはずもないのに



   春告鳥の声をまだ聞かず

   などて悲しき東雲(しののめ)の梅



 水平線をかなりの速さでいく船がある

 進みゆく進みゆく時の運航


 あの船は遠く地中海を目指していくのだろうか