この世の春と | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 今日は一日で本州を突き抜けてしまったような移動量

 だから少し疲れているから手短に




 朝早く

 もう暖かな空気の中を

 梅が数本並んだ道を歩いた

 梅の香りがしっとりと鼻腔を満たす

 ほんの数十秒の間であったとしても

 極楽浄土とかいうものがあるのならきっとそれは

 このようなところかもしれないと

 あまり筋道の通らない感情が湧き上がって

 深く息を吸ってまた一歩を歩いた



 この世の春

 夢のような世界は実はこのような

 通りすがりのひとときのものかもしれないと





 梅が香を聞くは ゆとりの径なるか

 束の間の 春はこの世の夢か また現(うつつ)

 ただひとときの それゆえの今