水辺の早春賦(3)動き速まりて | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 

 水
 冬の間は氷のように冷たかった水
 そのときも水鳥たちは水辺にいたが
 その動きは忍耐強さを思わせた
 そして生きるための厳しさを自らの行動で示してもいたが
 動きは重かった
 まるで水が足に絡みついて麻痺させでもしたように

 空気の冷たさが同じでも
 生き物たちの動きは少しずつ目に見えて変わっていく
 そそくさと新しい季節を待つように
 備えなくてはならないとでも言いそうに

 それを急かせるのも水なのだろうか

 三々五々群れて行く小さな集団がいくつも
 水面に浮かんでいた





 その一つ一つの群れの中でも動きがある
 さあ始めなくてはとでも言っているかのようだ


 







 でもこの時期
 鳥たちはまだ草と枝の傍にいることが多い
 強い風を避けているのか
 まるで係留された舟





 こんな光景が池の一辺に沿って点々とある水中木の側に続いていた


 しかし堂々と枝にとまって
 周囲を睥睨して居る者もある
 




 泳ぐところも
 木や草の近くに限っているのだろうか
 おそらくはそこに餌もいるのかもしれない

 枝の影絵の中を進んでいく鳥たちは物静かだ








 やはり水が違う
 水温が上がると見え方まで変わるのだろうか
 それとも微生物たちの活動が増えてきているのだろうか
 そうなれば水の粘性も少しは変わるのか
 いやそれほどではないだろうが
 何だか水質が変わってきている
 そんな気がした

 





 それでもまだ陸に(ではなかった)枝に上がる鳥たちも多い
 それは水温のせいなのだろう






 けれど
 もう春への歩みは始まっている
 
 あちらこちらへ動き回っていたかと思うと






 「はいはい失礼しますよ」と
 春日に甲羅干ししていた亀たちの朽木に近寄って






 その亀たちの間をずかずかと踏みつけそうに歩む
 亀たちは構わずにちょっと首を引っ込めた程度で動かない

 そうしてその先で
 「おや 今日は 通りますよ」
 「え 通るって この狭い橋の上をかね?」
 そんな会話があったかどうかは知らないが
 やってきた方はお構いなしに進むので





 「おっとっと」
 うっかり動けば水の中

 あるいは二羽で足を揃えてダンスする

 良きにつけ悪しきにつけ
 優しくも激しくも
 いろいろなインタラクションが起こる季節なのだということを
 思い出さされる

 それでも
 そこには目立った諍(いさか)いもなく
 その穏やかさがまだ早い春なのかもしれないと思うのだ
 春深まればまたそれなりに
 恋あり種の繁栄ありで競い合い戦うときもくるだろう

 けれど今は
 番(つがい)未満の二羽のオオバンのように
 羽づくろいする

 一方が片足を上げているのを
 他方が眺めている
 そういう姿が愛おしい






 早春の夕暮れ
 カンムリカイツブリの影絵の波の
 金色(こんじき)とピンクの光











 まるで漣(さざなみ)を立てに来た風の色のようだ
 もしかしたら
 何処か遠くの花の間をくぐって来たか






 この日
 僕は大池の周りを二回りした
 一周は3~4kmはあるだろうか
 そうだとすると7kmほどを足早に歩いたことになる

 池を後にする前にちらりと見た
 水辺の水底に形の良い羽が沈んでいた
 横には小さな羽毛
 水の中で銀色に光っていた
 この羽は誰のものだったのか

 
 春
 はる
 HARU

 今年のそれはどんな季節になるのだろう

   急かる思いをいかにせよとの この頃か

 そう古歌にあるけれど

 何事か動きが速まって

 僕にとってはとても大きな変化の春になるような気がした