少しだけ | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 少しだけ少しだけ
 昼に咲いた梅の花にそっと近寄って
 まだ咽(むせ)ぶほどでもない香りに酔っては
 あなたが春を想う夜
 それはまだ満ちてこない時

 しっとりとした花びらのような頬
 雌蕊の匂いのする唇
 夜のように長い髪
 あなたが花になって開く日は
 まだもう少し先なのだ

 この枝のすべての蕾が開く日に
 あなたは微かに甘く色づいて
 夜に肌(はだえ)を波打たせ
 風に漂って花と咲く意味を知るだろう
 それはきっと時の婚礼というものになるに違いない

 春
 気づかぬうちに満ちきたり
 あなたを愛が惜しみなく奪うだろう時