夕影夕鷺 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 この雲の色を何と呼べばいいのか僕はわからない

 いやそもそも
 これは「雲の色」なのだろうか
 何がこのような色を我々に見せるのか

 色失って2次元に投影された形だけの鷺
 これは白鷺なのだが

 それを「影」と人は呼ぶかもしれないが
 それはほんとうに「影」なのか


 




 少なくともこの「影」は
 陽光の中で木々の枝が地面に投げる影ではない
 これは光を透過しないものが黒く見えるということであり
 その意味では「影」ではなく「闇」なのだ

 形を持った闇
 それが飛び来て飛び去っていく













 わずかに濃淡を示す墨絵のような雲の中を
 黒い白鷺が飛ぶ

 風の強い日だったせいか
 時々その姿勢が傾き傾いては復元する


 光が息絶える日没寸前の飛翔






























 色を失い
 2次元に投影されてしまった鷺

 色があり
 奥行きがあり
 身体の膨らみが見えていたときには
 見ることのできなかった形がここにある

 明るい光の中で
 様々に鮮やかな色を見
 そこここに生じた影を見て
 僕たちは
 今見ているものの姿を
 奥行きを含めて把握することに慣れている

 逆に闇夜ではどのような姿も見ることはない

 今
 夕まぐれ
 闇の手前で
 いつもは見ることのない
 言わば純粋な
 奥行きのない形を観る

 それもまた
 日頃見ることのできない何かを観る方法なのだ


 黒い白鷺の形
 白は何処に行ったのか
 いや
 そもそも
 羽が白いというのはどういうことなのか
 光のないところで色は在ると言えるのか