風の王蟲 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 







 Theo Jansen
 それは一つの奇跡
 科学技術と芸術の稀有な融合

 物理学から動く彫刻へと
 華麗なる転身を遂げた者の深き面差しは
 哲学者のようだ

 史劇の中の海のように鉛色に耀く海
 渺々と吹き渡る風の中に

 軽いパイプと簡単なメカニズム
 けれど特別な黄金比によって
 部分と部分の幾千もの反復の中に
 いつの間にか生まれていた生命(いのち)

 これは映像のトリックではない
 まさに風の力によって息吹き返す生き物だ

 鳥に似た軽き中空の骨格
 軋んでは動き始める風の竜骨
 帆のように風にはためく翅
 海辺の王蟲(おうむ)
 
 ときに泣き死に瀕し
 ときに躊躇い足踏みし
 また風のように笑い声をあげて走り来る
 ひたひたと砂を蹴る音
 風の中に嘶(いなな)く百本の脚を持った馬よ

 中空の骨一本一本が語であるならば
 この生き物こそは大いなる
 叙事詩であり叙情詩であるもの

 物にして命あるものよ
 風とともに在るものよ















     僕は慌ててJansen mechanism の小さな模型を手に入れる
     これを今まで知らずにいた愚かさを迂闊さを笑いながら