秋の枝 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある




  大きな欅の枝でチシャ猫が笑っていた
  顔のない笑顔で

  僕が
  「おい お前 姿も見せずに笑っているなんて
  哀しい透明人間みたいだな」と言うと

  チシャ猫はまた一際やさしげに笑ってから
  ふわりと消えた

  僕はすぐに自分の言ったことを後悔した
  もしかしたらチシャ猫には
  ほんとうに身体がなかったのかもしれないと

  誰も居なくなった枝の上で
  秋が旅立ちの支度を始めた

  轟々と空気を鳴らして
  美しい木々の衣を脱ぎ捨てている

  僕は秋にもう少しだけ
  ここに留まっていてほしいと
  喉の奥から横笛を吹いて願ったけれど

  秋はただひとこと
  「音は唇で作ってはいけない」と言い残し

  チシャ猫のように旅立った