大きな欅の枝でチシャ猫が笑っていた
顔のない笑顔で
僕が
「おい お前 姿も見せずに笑っているなんて
哀しい透明人間みたいだな」と言うと
チシャ猫はまた一際やさしげに笑ってから
ふわりと消えた
僕はすぐに自分の言ったことを後悔した
もしかしたらチシャ猫には
ほんとうに身体がなかったのかもしれないと
誰も居なくなった枝の上で
秋が旅立ちの支度を始めた
轟々と空気を鳴らして
美しい木々の衣を脱ぎ捨てている
僕は秋にもう少しだけ
ここに留まっていてほしいと
喉の奥から横笛を吹いて願ったけれど
秋はただひとこと
「音は唇で作ってはいけない」と言い残し
チシャ猫のように旅立った