沈黙の掟 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 
 その詩は誰も読めない古い時間に置かれた

 伝えることは
 意味することは
 木の葉のように枯れ落ちて

 トラピストの修道女は声を神に捧げてしまった

 語られたときに死ぬ言葉より
 歌い手のいない沈黙の

 揺るぎない身振り

 ただの一文字も書かれていない
 届けられることのない手紙

 自律する一度だけの
 還りこない木魂(こだま)

 動詞も形容詞も
 名詞さえ失った構文の

 もはや誰かが読むことなど望まない文書の

 聞く人のない深き森の中で
 枝が折れて落ちる
 音にならぬ音

 笑って透明のインクで
 水に書いた歌を
 復唱する

 痛む人のない痛み

 中空の月

 通りすぎていく詩人たち

 私は聞く人のない耳を笑い続けた