時が降る | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 


『春の時間』



 

 光の不思議は昔から言われてきた
 光は波なのか粒なのかとか
 量子力学がいくら進んでも
 僕たち自身の世界の受けとめ方は余り変わらないのかもしれない

  lightspeed 
 光の速さ
 余りにも素速くてどこにでも射してくる光にも速度がある

 アインシュタインの話を人がするときは
 いつもその光の速度の話をする

 例えば誰かが僕より後ろを歩いていて
 僕が振り返ったとき
 僕はそのひとに当たった光が反射して
 僕のところまで辿り着くからそのひとを見ることができる

 その速さは余りに速いから
 そのひとに光が当たってから僕に届くまでに
 時間がかかっているなんて思いもしない

 でももし僕が段々光の速度に近づいていくと
 僕は光と競争することになり
 僕が光の速度を超えたなら
 つまり僕が光より先に移動すようになったなら
 
 そのひとから反射した光が僕に届くことはない
 だからちょっと立ち止まって
 そのひとの姿が届くのを待たないといけないことになり

 つまり僕はそのひとの姿を
 少し未来で待つことになる
 (もっとも光より早く進むということは僕にも大きな変化をもたらしてしまうから
 もう「見る」とか「待つ」とかの話じゃないだろうけどね実際は)

 逆に僕が向きを変えその人に向かって
 光以上の速さで近づいたら
 他の人よりも僕は早くそのひとの姿を見ることになる

 そういう仕組みを想像すれば
 タイム・マシンの話もなるほどなと思うのだけれど
 僕たちは自分の属している時間の枠組みからは
 逃げられないはずなので
 時間が進むとか遅れるとかいう話は
 その枠組み毎の枠組みの中の問題だという気がする

 二つの時間枠の間の時間のズレを感じるためには
 そのひとの時間枠と僕の時間枠が別々に在りながら
 何処かで何かの手段で
 二人が連絡して
 あるいは全く別の誰かが時間を比べ合わなければいけないはずで

 だからタイム・マシンができたって
 けっきょくそれは時間の流れが何本も流れているなかで
 そのひとと僕がすれ違っていくだけのことじゃないのかと思うのだ
 まるで二台のエレベータが違う速度で昇り降りするように
 エレベータAとエレベータBとの間で
 何か超高速無線通信か何かで連絡しあわなければ
 お互いのエレベータの中の時間の進み方は
 はっきりとはわからないままだ

 僕はいつもイソガシイ人間だ
 それは多忙ということではなくて
 例えば誰かが僕に仕事を2つ3つ持ってきて
 「そうだなあ君なら全部で10日あるいは遅くても2週間あればできるよね」
 それを聞くと僕はたいてい
 その日の内にその仕事を終わらせて
 後の2週間近くは寝ている

 寝ているというのは嘘だけれど
 その分だけ他のこと自分で決めた仕事ができることになる

 僕はあんまり時間の使い方が上手くないので
 何かを始めてしまうと休み休みやるなんてことができないのだ
 場合によっては2週間の13日目にやっと始めて
 その日の内に終わるとか
 とにかく始めたらノン・ストップだ

 もうこれは一生続くのかもしれないと思うのは
 何かに集中し始めると何も食べられなくなる
 珈琲かジャワティかでなければアルコールだけ
 いつだったか3日間食べずに何かに夢中になっていて
 (このときはアルコールもシュガーもなかったから)
 3日目の夕方に手が震えてきたので
 やっとカレーライスを食べたことがあったっけ

 別に食べるのが嫌いなわけじゃない
 美味しいものは大好きだ
 酒を呑むときも食べながら呑むのが普通かな
 というか何かにはまっていなければ
 規則正しく暮らしてるからね

 光の速さを考えるとき
 僕はそういう自分のことも考える
 あっという間に終わらなければ集中が切れる気がして怖いのだ
 光もきっとそういうイソガシイ奴なのだろうと

 そしてそういう生活の仕方のせいなのか
 僕にはときどき
 人の未来や過去を見ているような錯覚がある
 déjà vu は誰にでもあるし
 実際には連想されるイメージに過ぎず
 既に見ていないものも多いだろう
 jamais vuは見て知っているはずなのに
 「今まで見たことがない」気がすることだけど
 僕は小さい時から
 惚けているわけじゃないのにこういう感覚も多かった
 すべてが新鮮なのはいいことかもしれないけれど
 でも恐ろしく不安に感じることもないわけじゃない
 それは覚えていないとか言うことではなくて
 覚えているのに見たことがないみたいに見えるのだ

 僕が時間ということに関心を持つようになったのは
 そんなこともあったのかもしれないと思う
 何かを書くときも半過去だとか進行形だとかを
 意識し続けていて時にはそのままにし時には敢えて殺している

 人はきっと
 誰しもが光とともに進みながら
 ときどき時間軸から舞い上がり
 ずれた時間に生きているのじゃないかと思ったりする

 時はそういうとき
 まっすぐに上から下へと雪のように降ってくる気がするものだ


 何言ってるんだかね








  Hidden Sky by Jami Sieber