潮風の記憶 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 『潮風の記憶』






 まだ夏がそこにあったあの頃

 強いられたように旅をして私は探していた

 潮風に包まれて海を眺めていたあなたは

 海から離れたことが一度もないと言った

 まるで海の一部ででもあるかのように

 潮騒のように息をして波のように微笑んだ

 探していたものがあなたの瞳の中にあることに

 若すぎた旅人は気づかずに

 海のようなあなたをじっと見つめて

 ただ海と笑って時を過ごしていたのだ

 紺碧の水差しが夕暮れに色を失う時刻までも