風の強い日に出会った馬は
なんだか妙におとなしく僕はちょっと不安になって眺めていた
風の強い中で走って脚でも傷めたのではないかと
蹄に何かが刺さってしまったとか

え? どうしたの?
ぎゃっ 蹄が割れた!

ああ 蹄鉄だったのか
このおじさんは装蹄師 全国に500人くらいしかいないとか
しっかりと両足に馬の脚を挟み込み

へぇ こんなふうにして削ったりするんだ
蹄も人間の爪と同じで成長するし成長の仕方もいつも同じとは限らない
でも人間のように苦髪楽爪ではないだろうな
こんなふうに大きなヤスリも使って平にするんだ
なんだか爪を切った後で敏感になったのか
それとも蹄鉄がないからちょっと不安なのか
馬は爪先立っていたりした
そうやって蹄鉄を4本の脚全部からはずす
これがけっこう大変だ
それが済むと今度は鍛冶屋さんになる
真っ赤に熱した蹄鉄を
大きな金槌と牛の頭みたいな鉄床(かなとこ)で

がんがんがん
鉄床のあの牛の角みたいな部分の使い道
こんなふうに使うのか
まだ蹄鉄は赤いまま

もちろんこれは馬の蹄の形に合わせるためだ
この作業が始まる前に
蹄の大きさと形はちゃんと測って頭の中にある
それに合わせて叩くのだ
設計図なんてありはしない
経験と慎重な観察が産み出す技なのだ

ほら このちょっと三角形に飛び出したところが
ちょうど蹄の前に来てストッパーみたいになるんだね

がんがんとんとん 満足できるまで叩いたら
今度はその靴を馬に履かせることになるわけなのだけど
その前に水に入れ少し冷ましておくらしい
でもその蹄鉄を実際に履かせるまえに
蹄鉄を叩いたときや作ったときの残っていたバリを削るという作業もいるんだね
電動の研磨機で びゅうーーん
夕暮れ近い空気の中を花火のように飛び散った火の粉が美しい
これは蹄鉄を熱く真っ赤にするのと同様に
女性の仕事だった

さてではいよいよ?
この便利そうな多機能道具の尖った方を
蹄鉄の穴の部分に差し込んで巧みに蹄鉄を
馬の蹄に近づける
すると
ええ? これは!
煙?
ぷしゅーっと吹き出すように煙が上がる
まだ蹄鉄はこんなに熱かったのだ
でも蹄は人間の爪みたいなものだから多少の熱さは痛くない
それにしても凄い煙だ
ウェ ごほごほん 咳をしてしまいそうなほど濛濛と
僕の立っているところまで
蹄の焦げる臭いがする
いやそこら一帯に
なんだか不思議に温かい臭いだった
でもこれで蹄に蹄鉄がくっつくわけではないし
場合によっては平たさや形が上手くない場合だってあるらしく
時にはもう一度熱くして打ちなおすことも厭わない
馬にピッタリ合った靴を作るために努力を惜しまないのだ
そうして良しとなったらば
いよいよ
蹄鉄を打つ作業が始まる
左手の手袋に釘がいっぱい用意してある
一本一本打つ度に釘を取りに行ってなんかいられない
釘の形もよくよく考えられたものなのだろう
さあ間違いなく
そうやって何本か打って
こんなふうに
あれ 釘が蹄を突き抜けてる
蹄の形に合わせて斜めに打ち込むんじゃないのかな
いえいえ
爪と同じだからと言っても
馬にとって脚も蹄も命
走るとき歩くときにも微妙な感覚をしっかり感じ取らなければいけない
それに蹄だって生きているのだ
そういう敏感な部分に釘が打ち込まれたら大変だ
だから力仕事ではありそうだが単純に力があればいいわけではない
過たず特定の角度を維持しながら打つ必要がある
とっても繊細な 精密な技なのだ
こういう作業を素早く進めていくためには
流れ作業 チーム・プレイが欠かせない
こうやって打つ間も実は他の作業が進行しているのだ
その作業が一段落するまで時間調整なのか
装蹄師さんは馬の脚をぐっと雄さえたままじっと待つ
そのもうひとつの作業とは
そう
あの飛び出した釘を安全にすることだ

やっとこみたいな道具で釘の尖った頭を切る
ときには釘の角度を調整するために金槌も使わなければならないのか
でもそんなとき馬に不安を与えないように
金槌で地面をとんとん叩いて聞かせているのか
あるいは適当なリズムを作っているのか
地面をとんとんと叩きながら作業する
なんとキメ細やかな仕方なのだろうと感心する
釘の頭を綺麗に切った後はヤスリで綺麗に仕上げる必要がある
誰もこの釘で傷つくことがないように
馬も人も
蹄鉄と蹄の相性を確かめながら
もう一度もう一度と もっと良くなるように思いを込めて
こっちでも
最後の仕上げ作業が進行していた
こんな作業が進んでいくなかで
馬は静かな眼をしてじっとしていた
なんてやさしい表情だろう

さあ新しい靴はちゃんと脚に馴染むかな
馬は少し不安なのかまた爪先立っている
新しい靴は人間だって靴擦れができないか不安だよね
でもすぐに
すっくと立った
馬は装蹄師さんたちを信頼しているに違いない
さあ 歩こう
靴を新調してもらったから少し疲れたね
今日は厩舎でゆっくり休もうか
装蹄作業を中心に写真をまとめましたが
説明が間違っているかもしれません
あくまでも僕が見てこうなんだろうなと考えたことを書いています
間違いがあったらご指摘ください
装蹄師さんたちの真剣な
そして馬に対する思いやりの表情もたくさん撮らせていただきました
でも少し考えて顔はなるべく出ないようにしてあるのです
万が一これをご覧になる機会があって顔を出してもいいよと
言ってくださったら写真を追加したいと思っています
作業が終わってちょっとだけおしゃべりした
「この馬はいつも何曜日の何時頃に馬場に出るんでしょうか」と聞いたら
「私たちは業者なので
馬がいつ走ってるかはわかりません 厩舎のほら あの人に聞いてみて」
そうだったのか
外からここに来て装蹄するのか
夕暮れが来て装蹄師さんたちは大きなバンで帰って行きました
僕は最後の言葉が忘れられなくなったのでした
「私たちは業者だから」
いつも「業者」という言葉はどちらかと言うと他所の人
ときには下請けの人
僕の居るところでも「業者」は物品を届けてくれたり
機械を修理しに来たり売り込みに来たりする人たちだ
だから何となく軽く見ていたかもしれない「業者」という言葉
僕は帰り道
何度もその言葉を思い出し
その素晴らしさを噛み締めていた
なんて敬虔な温かい言葉だろうと





