本を読む時 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 

 人が本を読むのはどういう時なのだろう

 秋の夜長に
 とろとろと暖かな冬の陽溜まりで
 春の煌めく川のそば
 眩しい夏にビーチパラソルの下

 多忙な毎日の中の短いひとときに
 退屈な何もない長い一日に
 悲しみに耐え続ける支えとして

 数え上げられないほどたくさんの
 さまざまな時があるに違いない


 でも
 と僕はふと思うのだ

 人は幸せなときには読まないのかもしれないと
 読む必要のないほどに
 すべてが手の中にあるときは
 もはや満たすべきものが何一つなく

 それから僕は思うのだ
 本を読むこと自体の幸せを
 時間と空間を超えてくる
 世界と親しく語らう幸せを


 そう考えると
 僕はまた
 僕の幸せになるページを開くのだ
 清く美しく汚れて醜い事どもの
 最後のページにあるものを知りたくて