風の強い日
僕が馬場の方に足を向けたのは
走っている馬が見たかったからだった
鬣(たてがみ)を風に波打たせ
長い尾を翻して走る馬を
奔馬
それは風の強い日にこそふさわしい
けれど馬場に着くと
期待は裏切られた
馬場の土は強風に舞い上がり
風の向きが変わると頬にぱちぱちと打ち当たり
目を開いていることもできないほどだった
仕方なく
僕は厩舎の方に歩いて行き
数頭の馬を順繰りに眺めていた
一頭の馬が曳き出されてきたが
騎手は見当たらなかった
その代わりに騎手とは全く違う出で立ちの人が
三人その馬を取り囲んでいた

馬は少し驚いたような顔をしていて
僕が見たときには
左の前足を奇妙に曲げていた
やがてがっしりした男の人が
馬の足を入念に調べ始めた
馬の顔には不安の表情が浮かんでいるように思える
厩舎の中から
仲間たちも首を突き出してこの馬を眺めていた
曳きだされた馬は
左側の足が前後とも少しだけ白く
その白い方の脚の蹄は
薄い黄色と黒の縞模様になっていた

こうして見ると
馬という生き物は何処から何処までも美しいのだと
改めて思う
蹄まで彩ることを造化の神は忘れなかったのだ
そう思いながら
僕は馬の全身をゆっくりと見回した
何かがいつもと少し違う気がした
三人の人の動きが早くなっていく
その頃には馬は諦めたような穏やかさを取り戻して
静けさそのもののように見えた
僕はそのとき
もう一度馬の脚を見て気がついたのだ
風の日
砂埃が舞い上がるほどの強風と
この馬が曳きだされ
こうして静かに何事かを待っているように見えることとは
決して無関係ではなかったということに