猫 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 久しぶりに見た 
 空を覆うほどに幾条も並んだ
 真っ赤な夕焼けの雲

 決して記録に留めてはいけない
 このひと時だけを
 染めよと思うほどに赤い茜色

 丘を降りる道の曲がり角
 一匹の猫を拾った

 僕だった

 出会おうと願っていた
 あの頃の

 誰にも何も言えなかった
 あの頃の

 崩折れそうな紙の箱の中で
 きっと拾いに来るはずの
 僕を待っていた

 僕だった