紅の雪さんの『雨に』の雨音に打たれて
雨降り落ちる
遠い時間
切れ目なく降る布のような雨の中を
歩いていた
誰にも連れられず
吹き当たる雨で
傘を持つ手は濡れて冷たくなり
小さな長靴のなかは既に水浸しで
靴下もぐちゃぐちゃになって脱げかけていた
歯も食いしばっていただろう
空は灰色
街も灰色
雨も
瞳も灰色だった
あの日
僕は初めて
生きていく孤独というものを知ったのだ
聞こえるのは雨音ばかり
感じるのは雨の冷たさばかり
遠くまで遠くまで行かなければと
家を出て
何処か誰も知らないところへ
行かなければと
それから僕は
突然に
傘ごと
抱き止められた
傘の骨が折れそうなほどの力で
僕は忘れない
そのひとの頬が
止まらない
止まることのない
温かな雨で濡れていたことを
でもそれが誰だったのか
もう思い出せない
半日で挫折した一人の旅を
それが難しくなくなった今も
忘れることがない
雨の深みの
絶えざる何かに
呼ばれていた子ども時代の
遠い記憶