十月 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 一匹の白い兎が
 鼻をひくひくさせて
 何かの匂いを嗅いでいた
 秋の光の立ち止まる

 笑む者がいる

 遠い野のはずれの
 今は亡き
 井戸の跡に近づいた
 明るい翳の腕時計

 枯れた葉が鳴った

 何処だろう
 風の巻き上げて踊る音
 マーチに紛れる午後のチャイム
 壁に反射した静かな吐息と

 空気に響く鳥の羽

 たおやかに
 逆らわずに
 過ぎていった時間の
 足下で

 何事か秋の底を震わしている