美しきもの | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 美しいとは

 撒き散らされた水に太陽が映って
 展がっては消える虹のように
 束の間の煌きのようなものなのか

 それとも

 深き海の底 高き峰の氷河のように
 時の川を渡って永く変わることのないものか

 美しいとは

 明瞭な形を持つもの 艶やかな色

 それとも形なく
 見えることなく
 ただ心のうちに

 ならば

 目に見えぬものを人はどうやって美しいと知るのだろう
 目に明瞭に映るものを人はどうやって美しいと知るのだろう


 美しいとは

 川面の秋日の揺らぐように歌われる調べなのだろうか
 それとも緻密に組み上げられた水晶のように確かな法則を歌うものなのか

 美しいとは

 手に触れてその冷たさと温もりがわかるもの
 それとも決して手が届くことのない

 ああすべて
 何もかも
 私にはわからない

 風の通り過ぎた野の形
 昇り来る陽に燃え上がる雲
 悲しき雨音
 絶え絶えにいつまでも鳴りやまぬピアノ

 山の端に落ちてくる夕暮れ
 明ける海
 忘れられ思い出された合唱
 遠い角笛
 満天の星

 ああすべて
 何もかも
 私にはわからない

 恋に落ちた熱い瞳
 悩めるものの寄せられた眉
 逞しき腕
 舞い落ちる雪
 冬の朝の白き息
 春のかげろう


 ああすべて

 何もかも

 私にはわからない


 すべて在るもの
 息づくものたちのすべてが
 美しいと
 言ってはならぬのか


 この目に映り耳に鳴り
 唇に触れ
 私を訪うものとことのすべてを
 美しいと

 言ってはならぬのか