満ち干 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 夜の奥底で見た夢は
 遠いさざ波に微笑んだ君の顔

 手を伸ばさずに
 僕は息を吸い込んで
 何ごとか言う

 君には聞こえない僕の声

 横を向いた君の
 月の光のように真っ白な乳房が
 見えない風に掻き乱されて消えかけて

 いつものように覚める夢

 夜の向こうで波の音

 退いては寄せる海を抱いたまま
 僕は息を吸い込んで
 何ごとか言う

 ああ君のやわらかき足の冷たさよ

 流れる時のかなしさに
 また海が鳴って
 鳴りやまぬ

 夢であると知りながら
 満ちて退きまた満ちてくる月と潮