空鯨船 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 初秋の夕空を
 空鯨船が飛んでいた
 もう飛ぶことはないと思っていた空鯨船
 轟轟と雲と風とをかき分けて

 いつか楽器を抱えて小走りに
 コンサートに向かう道の上空を悠々と飛んでいた
 それ以来もう何年も見かけない
 キール震わして飛ぶあの船が

 何を告げに来たのだろう
 何を歌っているのだろう
 あの身体に似合わぬ悲しげな高い声
 時の大海(おおうみ)航(わた)る船

 お前の母港はどこにある
 遥か海神(わたつみ)の懐の
 時を忘れた島の陰
 人魚たちの霧のようなコラールに包まれて


 ああまた空鯨船が飛んでいく