私はあなたを愛さない | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 私はあなたを愛さない

 あなたが愛に応えないからではない
 むしろあなたは愛が何かを知らなくて
 私があなたを愛そうが愛さずにいようが
 そんなことには全くおかまいもなしに
 ずっといつまでも私の傍にいて
 私を見つめていてくれるだろう
 私はそれを知っているからだ

 愛が何かを知らないままに
 人を愛するということの不思議さ
 あなたはその不思議さそのままの在り方で

 そんな無名で無形の愛に
 限りある私の愛は応えきれない
 だからそんな拙い愛で愛すより
 いつか尽きるような私の愛で愛すより
 私はあなたを愛さない方を選ぶ
 愛さずに
 ただあなたの愛に愛されるだけの径を選ぶだろう

 1と0との0を選んで
 あなたの圧倒的な1に
 何もない0として向き合って生きていきたいと

 そんなことには気もとめず
 あなたは跳ねるように近づいて
 それから大きな目で私を見つめてから
 そっと目を閉じる

 あなたの閉じられた瞳の中に
 何が映っているのかを私は知っている
 そう
 いつかきっとその場所にふたりして行き
 あなたの見たものを
 私もこの目で見て
 夢でないことを確かめよう

 とうとうその日がふたりに来るまでは
 私はあなたを愛さない