高い枝 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 少年は登った
 誰かに叱られてくさくさしていたからではなかった
 そんなことはもうすっかり忘れていた
 だって叱られた原因は同じ
 この無謀な木登りだったのだ

 その木はその辺り一帯で一番背が高かった
 そのうえ高い崖の上に生えていたから
 眺望は最高だったが
 足を踏みはずせば鳥でない者には
 大怪我かさもなくば死を意味していた

 少年はやめなかった
 目の前に広がる平野と海に心躍らせて
 雲にまで届こうと

 ある日途中の枝で
 少年は鴉に出会った
 鴉は大きな真っ黒に光る翼を持っていたが
 視力を失って
 飛ぶことを恐れていた
 けれど鴉も少年と同じように高みに
 木の天辺近くの枝を求めて
 ひと枝ひと枝を登ってきた

 少年と鴉は登った
 登るのをやめなかった
 そしてとうとう頂きがつかめる枝に到達した

 少年は目の見えない鴉のために
 緑の牧場や煌めく川や
 碧い海原をかすめる鷗たちについて語った
 鴉はじっと黙って
 少年の歌のような説明を聞いていた

 やがて少年が話に一息ついたとき
 鴉が言った
 お前が目になってくれるなら
 私は死ぬのをやめて
 お前の翼になろうと

 少年は何も言わなかったが
 腰掛けていた高みの枝にすっくと立って
 頂きをつかんだ手を風に吹かれた花のように離し
 空へと飛んだ
 鴉はその音に気づいて大きな翼を拡げ
 少年を背にのせて
 広い広い世界の中へと飛んでいった

 一部始終を見送った木が言った
 ああ私の腕は無駄に空を抱いていたのではなかったと