自転車に乗って | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある







 どこまでも走っていけばよい

 その新しい自転車に乗って


 街の大きな道路を横切って

 心臓破りの坂を越え


 潮風の匂う海岸通りのアスファルト

 緑濃く茂って涼しい林を抜けて


 岬はずれのレストランの駐車場

 浜辺の鴎の群れを突っ切って


 スポーツカーと競争するほどに

 折れそうなほどペダルを踏んで


 新しい市(まち)懐かしい村

 堂々と湾を横切る橋を過ぎ


 人々の話し声と笑顔の中を

 大きな息と早鐘の心臓で


 どこまでもどこまでも

 走っていけばよい


 街も橋も林も海鳥も

 君のものではないけれど


 君の時間は今や

 一から百まで君のものなのだ