闇のあとさき | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 光が愛を妨げるのを拒んだ

 朝も昼も闇にして
 一条の光も許さず
 顔も姿も見ぬままにしていた
 ただ身体を打ち当てて抗わせ
 
 枕が濡れているのに気がついて
 泣いているのかと

 尋ねなければ
 闇は体温をとどめて
 ふたりを閉じ込め続けていたのかもしれなかったか

 聞かずにいられなかったのは
 青さからだった
 それとも心底いとおしく

 それを問う意味は今もない
 そのとき気遣ったことと同じように


 顔を少しそむけて違うと言ったが
 胸は僕の腕のしたで細かく速く上下して
 息が君の鼻の奥でひくひくと鳴った
 押し当てた僕の鼻に
 ぬらぬらと塩からい液体が
 引きも切らずに落ちてきた

 その温かさと冷たさを忘れない
 忘れないようにと

 それきり僕は
 君を忘れることに決め
 すべての愛の闇を遠ざけた
 もはや僕のものではない君の
 乳房もうなじも唇も
 やさしい光に解かすことだけを考えて

 谷間の闇に身を投げて
 死ぬほどに溺れていた川を
 涸らしたままに時は過ぎ

 この日
 思わぬ夜の予感を僕は押しのける
 来てはならないと

 僕はもう苦しみを嘆くことを忘れた
 それは気遣うことと同じように意味がない
 だからそんな
 打ち捨てた小石の如き者に
 二度と近寄って来てはならないと

 それがどのような姿をしたものであろうとも
 僕は温かき闇をゆるさない