またいつの間にか木立に隠された森の中へ迷い込んでいた
外は朝だったはずなのにここは夜
なのに
咽せ返るような葉と花の匂いがした
白い馬を見た
柔らかな腹と伸びやかな背をして濡れた真っ黒な目で僕を見た
それから向き直り走り出す
木々の幹の間を巧みに通り抜けていくのではない
重く沈んだ森の木の幹に突進し
そしてこともなげにするりと
まるでセミが羽化するように木の幹を脱いで走り抜ける
追いかけると
ぴたりと万両の赤い実の横で立ち止まった
鼻先にいた真っ黒な烏が舞い上がり
馬の背に乗って一声啼いた
また森が水底のように静かになり
遙か頭上の高みで
空が笑い声を立てていた
僕が見ていたのは何だろう
まっすぐな青い光が射し込んだ先にあったのは
鬼百合と黒百合で
百合たちが揺れると
その強い香りとともに
遠い蹄の音と耳元近い羽音が
僕を信じられない甘さで苦しめた
入り乱れた白鍵と黒鍵のように
ああ
この幻はこの曲が僕にまざまざと見せたのか
手が止まると
夜の森は白昼の影のように瞬く間に消えた