葉桜の昼下がり
老人がベンチに浅く腰掛けていた
手に持って顔の前に引き寄せた杖にすがるようにも見えた
彼はベンチの真ん中に座っていなかったので
僕は歩いて行って彼の隣に座った
それから随分と時間が経ったと思う
雀たち 街の雑踏 遠い潮騒
突然息を吹き返したみたいに老人が首をあげて僕を見て言った
「お若いの」
僕は年月を刻んだ彼の顔をまっすぐに見た
蝋石のように沈んだ静かな灰色の目だった
僕は声では応えられなかったが目は微笑んでいた
それがわかるほど僕は自分を意識して彼を見たからだ
それからまた何かの鳥が数小節の歌を歌った
老人がまた僕の顔をしげしげと見て言った
「お若いの」
僕は飛び跳ねたように立ち上がって「はい」と言った
言わざるを得ないと感じたためではなかった
どこかはわからないが僕の奥のほうでそうさせたものがある
老人は立ち上がった僕をひどくゆっくり見上げてから言った
「お若いの」
「はい」
それからこのやりとりを五回も繰り返した後で老人は嬉しそうに言った
「あたたかいな」
僕はもう一度跳び上がりそうになりながら
「はい」と言った
名付けることもできないような時間が過ぎていく
けれどもこの日
僕は孤独ではなかった
歳を重ねた春と居たからだ