一歩を昇って | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 一段を一歩昇って
 自分が深く息をしたと気づくことがある

 たった一段のことなのに
 
 後になって気づくことがある
 それが途方もなく長い一歩だったのだと

 弓に抗う弦の
 きりきりと撓(しな)う音が
 ふっと立ち消えて
 矢は振り返らずに
 飛んでいく


 ぱん

 朝靄の向こうの安土の上で
 張り詰めた的が硬く鳴る

 その一声(いっせい)
 その一息

 そうやって皆
 時を
 事を
 人を過ぎ
 自分を超えてゆくものと
 確かに気づくときがある