海を渡って | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 もうずいぶんと昔のことだ

 僕らは遠くヨーロッパの半島を望む海の上を旅していた

 長い旅の

 そのほんの一部分の短い時間

 ちいさな艀(はしけ)に乗った



 暗い水の上を崩れくる波を越え

 風に流されながら

 一羽の鳩が僕をめがけて飛んできた

 羽音を立てながら

 まっすぐに



 思わず僕はシャッターを切り

 その目の動きすら見えるほど近づいた鳩を写した

 そのまま鳩は僕の顔の横を斜めにすり抜けて高く飛び

 灰色の空を背に

 羽ばたく翼の影を残していった



 時が経ち鳩はお気に入りの写真立ての中に納まって

 旅する僕の机の上にいつも飾られていた

 ある日ホテルの僕の部屋を訪れた

 愛くるしいほどに青い瞳をした少女が言った

 「この写真をください 形見に」と

 「僕はまだ死にはしないよ」と笑うと

 少女も照れくさそうに笑って言った

 「ごめんなさい 思い出にと言うつもりでした」



 二年後にその街を訪れたとき

 僕は少女が死んだことを知った



 もう僕のもとにはその写真のネガはない

 僕が送ってしまったからだ

 一本のマッチで

 その子のもとへ

 風に乗せて

 鳩の想いとともに

 ずっと飛び続けられるように

 遥かに遠く君の夢が届く限りのところまでもと








イブさんに写真をまたコラボしてもらいました Wind ~風に焦がれて~

そのページで聴いた曲 Wind 。。。。。。




その Wind  で思い出した An Immigrant's Daughter




その An Immigrant's Daughter で思い出したことでした