季節は覚えていない
でも海の見える公園にいたことはよく覚えている
老婆がひとりベンチに腰かけて
何事か呟いていた
海風が私の髪の中を
潮の匂いをさせながら通りすぎて行った
海鳥の群れが浜辺に降り立ち
海と陸とを交互に眺めながら
ときおり喉を涸らして鳴いていた
老婆が立ち上がってゆっくり街の方に消えたとき
その時を私はよく覚えている
老婆のつぶやく声が失われたその場所は
鳥たちも押し黙って
風と遠い波の音だけが
白い紙の上に流された真っ青なインクのように
私の耳と心を奪った
私は朝ぼらけからそこに居て
海が浜辺から迫り上がってくるのを見ていた
なんという圧倒的な姿だろうと
生まれた時からこの海は
こんなふうに生きてきたのか
揺れ動き吹き荒れ哮っては
遠浅の浜を遠くまで引き退いて
まるでこの世の終わりまで
そこにあるかのように
この日ずっと待ち続け
果たされなかった約束は
今も取り消されてはいないけれど
それは海が寄せては返すように
誰にも止められないことだったと
その日を思い出すたびに私は思う
海の必然
私はそう呼んでいる
立ち尽くしていた自分に言い聞かせるように
人の出会いと別離は
その海のようだと
寄せては返す潮の干満
絶えることなく繰り返されていく
成り行きなのだと