沈みゆく船
実にゆっくりと
水面から巻き込んだ空気を泡にして
その泡の透き通るような列が船の落ちてゆくのとは反対に
鈍く光る点線を幾条も立ち昇らせて
音もなく
それから船は今度は空を
目が開いていられないほどに眩しい空を
落ちていった
僕はダフネの裸の肩を抱いていた
重い海水の錯綜する流れに
薄いバレー着は引きちぎれ
ダフネの熱い肌が僕の胸に触れ
火のように燃えていた
ダフネは喘ぎ
喘ぐたびに頭を僕の頬に押し付けた
髪がそこでさらさらと
風に煽られて僕の目を覆う
喘ぐダフネを慰めようと思うのか
そのたびに僕はダフネを抱いた腕に力をこめ
そしてまたダフネが喘ぐ
愛とは何だろう
ともに生きることを厭わぬこと
それとも
ともに死ぬことを
ダフネが何かの歌を歌い始める
子守歌のような
すべての運命を受け容れることを歌っている歌を
ダフネの指が僕の頬に唇に触れていく
どこか遠くまで
急に落ちてゆく船は速度を落とし
僕たちは
固い床のようなところに
落とされる
高い規則的な音
いやときどき不規則に揺れる
とても人工的な音
心電図?
これは誰の拍動だろう
ダフネにしてはゆっくりと
僕のにしては速すぎる
違う
これは心拍ではない
もっと機械的な音だ
信号?
僕は不安になって
ダフネを抱き寄せる
ダフネが顔を上げて
その美しい瞳で僕をじっと見ながら
唇が動いて何か言う
K
とうとう
わたしたち
ずっといっしょに
やがて船は水底に着いたのか
ガタンと止まる
「急いだ方がいい」と誰かが言う
それからまた床が揺れ始める
ダフネ
これでよかったのか
僕は空を見上げながら尋ねたような気がする
いや誰かが
「これでよい」と言ったのかもしれない
束の間煌めいた星
そう
これでよかったのだ
こうなることはずっと前からわかっていた
抗ってはいけない
どこから来て
どこに行こうと