定まりきらない出来事の成り行きを生きていく
安定した棲家を持たない哀しさはあっても
結局は人生そのものが一所不住の
旅から旅のその日暮らし
ロード・ムービーの毎日を
その危うさを
柵(しがらみ)のない人生だと見なすなら
それはそれで幸せな旅路なのだと
僕はずっと何処かで思っていた
父も母も一処(ひとところ)には住みつかぬ
車窓を我が家の窓と思うひとたちとして死に
紙で作った月を
この本当の空に貼り付けて
クレヨンで塗った青白い光を
僕らの生を射通す光の矢だと信じこみ
ときにはそれを
空から剥がし
床の上に置いて靴で踏み
ああ月までも旅できたのだと
それはいつだって
空想の嘘で飾った世界だったけれど
それでも僕らはその月を
僕らの本当の月だと信じた
僕がいつの間にか愛したのも
いつも決まってそういう暮らしを余儀なくさせられ
それでいてそれを愛せずにはいられない
そういう人たちだった
いつまでも同じ街の同じ家に住み
幸せで暖かすぎる仲間たちに囲まれた生活に
ほんのひととき憧れようとも
僕らの足はすぐ落ち着きを失って
どこか遠い街々に憧れて
いつもの道を踏み外す
紙で作ったペーパー・ムーンは
僕の掌(てのひら)に載せたときですら
風に浮き上がりして震え
かさかさと揺れていた
でもその月は
僕らの夢を載せるだけ大きくて
何十年もの時を航海するほどに強かった
おののきつづける心のように
消し去ることのできない光を保ち
考えてみれば僕らの人生も
紙の月の上に踊る兎の影のようなもの
月に住む兎だって本当ではないけれど
それでもその兎はもう何世紀も
人々の心の中を生きてきたのだ
月が雨に濡れて破れてしまったら
また新しい紙を適当に切り抜いて
人を魅了してやまない
この煌めきの色をクレヨンで塗り
それからその月の夜に人を愛して
その月の出る空の下を歩き続ける
毎月毎月ごとに新しい月
本当の空にかかる月には手は届かないけれど
紙細工の月は僕らの掌(たなごころ)の地平から昇る月
どこか遠い宇宙の重力場の力学を知りもしないが
僕らの昨日(きのう)と今と明日(あした)を
間違いなく照らし続ける月であり
僕らの息が止まってじっと動かなくなる日まで
たった一本の虫ピンで空に留まり
同じように軽い僕らの旅を
やさしい光で照らし続けてくれる月なのだ
ペーパー・ムーンの月明かりが照らし出す
その影のような人たちよ
今夜もまたともに歩いていこう
軽やかな幸せに包まれて
月に映した僕らの影を