流れゆくピアノ | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 夜の平野の真中(まなか)の

 深々とした静寂を
 煌めくように貫いて

 暗き川面を
 白きピアノの流れくる日

 弾き手なき洋琴は
 華やかに浮かびては
 懊悩の虜となり

 白き航路
 水の上の鬼火

 猛々しき血
 忘れ去られた故郷の風音
 降り注ぐ滝
 轟く軍馬の群れの
 燃え上がる嘶(いなな)き
 鮮やかな追憶

 やさしきひと
 死せる魂
 のたうちまわり
 祈りつづけ

 小部屋の吐息
 談笑する花瓶

 一人踊るロンド
 亡霊たちと天使たちの行進
 すべての物事の奥の部屋
 止まらない嗚咽
 研ぎ澄まされた氷
 春めく泉

 湧きいでる夏の湖
 吸い込まれた砂漠の果て
 溢れ来て立ち止まる秋

 ああ何処までも

 歌わずにはいられない
 夜の秘め事
 回復され失われる物たち

 震える胸
 遠ざかるピアノ
 たどり着き得ない開城の城
 涙する魚たちのノスタルジア
 膚(はだえ)の上の風

 深まる夜の底を
 誰を想い

 完璧な水面を転がりゆく水滴の
 みごとな硬度

 暗き川面を
 白きピアノの流れゆく日
 音どもの遥か遠く
 浮きつ沈みつ

 いずれまた
 那辺にてか
 光として

 相(あい)見(まみ)えんことを