阿修羅 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 静まり返る夕暮れに光射す径
 深い感情に満たされてじっと
 立ち阿修羅が祈り続けていた
 僕は手をぱたぱたと動かして
 阿修羅の姿を真似ようとした

 ふと目を上げて阿修羅が笑う
 そなたの腕は二本しかないと
 僕は笑わずに阿修羅を見つめ
 ええだから悲しみも懺悔心も
 貴方の三分の一ですむのだと

 寸刻のあいだ阿修羅は沈黙し
 ではなぜ私の真似をしたのか
 三倍幸得ることもできぬのに

 僕は目を伏せ二本の腕を挙げ
 三倍の貴方の悲しみをいつか
 担わねばならぬ日来るのなら
 どのようにして耐えるかを今
 貴方から学びたいと思ったと

 それを聞いて阿修羅は目閉じ
 それきり何も言わなくなって
 静かに時の河を渡って行った
 
 いつかまた貴方にまみえる日
 そっと貴方に言えるだろうか
 この二本の腕で三倍の悲しみ
 抱きしめて生きてこられたは
 今日の語らいのお陰だったと