別々の時間と別の時間 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 ねぇ
 そう思わないかな
 僕たちは皆別々の時間を
 それぞれの時間を生きている
 画面の中の君も
 そこで笑ってるあなたも

 場所の感覚はときどき失われる
 一緒に居れば尚のことだけど
 それでも君の時間と
 僕の時間は同じではない
 ときには君は生き急ぎ
 ときには僕は立ち止まる

 それに
 君が生まれてから生きてきた時間の軸は
 僕のそれとは違うんだ
 時はどこかで交差して
 一緒の時間を生きることになり

 僕はその
 僕とは別の時間の虜にもなって
 別の時間を生きることになる

 あのひとのこれまでの話を聞いていると
 僕はいつのまにかあのひとの時間に吸い込まれ
 長い人生を生きてきたみたいになる
 ダフネの時間はまだ浅い
 それだけまだ柔らかで瑞々しい
 僕には戻れない時間だけれど
 それでも僕はダフネと並んで海を見る
 海の時間は
 僕らの時間の違いとは比べ物にならないくらい
 長くて深いんだろうと思いながら
 Mの時間は
 Mの時間は僕のとそんなに違わない
 それでも
 僕たちは別の時間を生きている
 Mは今はここにいない
 でもそれはただ場所の問題なのだけれど
 そうなった理由には
 別々の
 僕たちの時間がある
 
 目になんか決して見えないことだけど
 時間の流れは
 まるで細長い幾本もの布地のように
 流れては触れ合い
 滑り行き
 遠ざかり近づいて

 別々の時間を生きることと
 別の時間を生きることの
 鮮やかな違いを
 僕たちに教え続ける