遠雷 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 夕べに有るか無きかの風が吹く
 世界の音が消え
 はるか彼方まで静まり返る大気の中を
 形の無い彫像の夜がやってくる

 時は何か
 地はどこまで広がるか
 海は誰の声を聞いているのか

 軋む大気
 色を失ってゆく空
 形を隠してしまう海

 その向こうに一筋の稲妻
 この静けさの中に落ちてくる光の竜
 唸ることもせず
 時の裂け目のようにまっすぐに
 海に突き刺さった

 あれは何の印章か
 来たるべき夏の一番騎
 無音の旗に染めつけた伝令の知らせ

 夜の重い腕(かいな)が町の木々を抱く
 静かに
 静かに待てと

 竜の咆哮が
 我らの胸の奥底に
 耳には聞こえない大音響として届く午後九時を