Mが帰ってくると書いていた日の朝に
僕は短いメールを送った
前の日に送りたかったが
エラーで返ってくるかもしれなかったから
「お帰り 元気? だろうね
今日はお母さんと過ごすように
明日は迎えにいく
好きな場所を指定してほしい
時間は午後7時以降に
勝手な話だと言われそうだけど
それから
わがままなお願いが一つある
詳しいことは会ったときに」
僕はあのひとに言ったことを実行に移す決心をしていた
Mにときどきは崖の上の家に来てもらうという
もしかしたらMを悲しませたり怒らせたりするかもしれない
でもMなら
Mだからわかってくれるにちがいないと
それはいろんな意味で冒険だった
Mがしばらく日本を出て行った理由もはっきりとは知らなかったし
Mの土産話に対しても僕自身が複雑な気分だった
まるで忘れていた時間が急に帰ってくるように
自分では考えもしなかったようなことになる予感もあったし
でも結局僕はMにメールを送った
ダフネを学校まで送って僕は自分の生活に戻り
Mからの返事を待った
不着メッセージが戻ってこなかったのに
返事は来ない
いつもなら気にしないのに神経質になって
もう一度
少し文面を変えて送ろうとしていた昼過ぎに
返事が来た
「ただいま もう家よ 携帯は家に置いていったの
『お帰り』メール嬉しかった
でもどうしたの? 病気でもした?
なんか変 『お願いがある』なんて言うひとだっけ?
わかった」と
その後はいつもの駅と時間は『任せる』と書いてあった
僕の気分の中にMが急に戻ってきて
胸の下あたりが息苦しくなった
僕のMに対する気持ちは
ダフネに対する気持ちとはまったく違うのに
いろいろな感情が行き来する
Mも少し不安に思ったのだろう
それは覚悟して書いたメールだった
Mはきっと何かを感じとるだろうと思って書いた
でも僕の今の状況をMは知らない
それを早く伝えなければという思いが
どう伝えればいいのかわからずにいる僕の中で
空回りした
「じゃあ8時に
明日が待ち遠しい」
と僕は書く
勝手かもしれないがほんとうの気持ちだった
短い返事がすぐに返ってきた
「私も」
おかしなことだと思うけれど
その返事を読んで僕は目尻が熱くなる
くるくると回りつづける時と
しばらくぶりに流れ始める時が
頭の中で聞きなれない音を立てていた