貝の船 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 夜の浜辺で貝を拾った
 15センチはありそうな
 きざきざに波打つ外側と
 月の光に虹色に揺らめく内側の
 たくましそうな二枚貝の
 片割れの

 この貝で船を作ろう
 黄色い野菊の帆を立てて
 風に頼む必要はない
 遠い航海の望みのままに
 船はまっしぐらに行くだろう
 眠れる海の真ん中へ


 うらうらと光が船を漂わせ
 飛行機ほどもある飛魚が
 僕らの頭の上を飛んでいく
 自分の故郷の海に居て
 貝殻の船はたじろがず
 悠々と潮風の中を揺れるだろう

 君は魚になればいい
 青白い鱗を光らせて
 波をくぐり風に歌って
 時間の消えた海原を
 
 僕は根の切れた海草になり
 水に浮かんで君を待つ
 泳ぎ疲れた君の海の褥となって
 君を抱きしめる


 貝の船は知るだろう
 生きている者たちが
 泳いでは休み少し流されて
 また息を吹き返したように
 泳ぎ出すのを

 生きてある者が
 止まったままの時間の海に
 すべての哲学を廃絶し
 何も考えずにあることを
 身体のすべてを海に与えて
 愛の形にすることを
 

 夜の海が
 昼の海になる夢を見る間