クリスマス・イブに(2) | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 人にやさしくする気持ちが
 愛情とか友情あるいは恋とどこが違うのか
 オレには はっきりとはわからないが
 やさしくすることは
 絆を持つこととは
 どこか違っている

 恋はもちろん
 家族との愛情であれ
 友情であったとしても
 やはりどこかで
 相手を求めてる
 でも
 やさしくすることは
 何かを
 あるいは
 誰かを
 求めることはないのじゃないかと
 それも広い意味では愛なのかもしれないが

 床に座ったり転がっていることが多いオレの
 床置きの円形のテーブルの上に
 所狭しと広げられたターキーや
 フライド・チキン
 量指向のイタリア料理店みたいな
 多量のサラダ
 クラッカーにのせるためのイクラや
 チーズ
 生ハムとゆで卵にキャビアもどき
 もう言い立てられないほどのものを
 選んで買ってきたのは
 誰のやさしさだったのか

 「なあに このカシマシイ二人の
 後を黙ってカートを押してきただけだよ」とT
 「ケーキもある」と自慢げにS
 ワインのボトルをまず二本
 テーブルに置いてから
 「そうそう これがなくちゃダメよね」と
 四角いガラス容器に収まった
 キャンドルを五つも並べてから
 一つずつ火を着けて満足げなM

 それから小さなヒイラギのリースと
 何かの枝と葉の飾りを窓際の
 カーテンレールの上にひっ掛ける
 「こんな金があったら」と言いかけた
 オレの口をさっと押さえて「お黙り」とM

 Tがニヤニヤしながら
 「大半はMがカラダ張って稼いできたんだと」
 「そうそう 港のヌード喫茶でアルバイトしてきた」と
 アルコール一滴も飲まないうちから
 嘘丸見えのシモネータになるMが
 待ち切れなさそうに
 「さあ明かりを消して」と宣言し
 瞬く間に押しかけパーティが出来上がる

 ほんとうにコイツら今夜はオレのところを
 占拠するつもりなのだと
 なんだかんだと久しぶりの四方山話
 「で俺とKとはけっこう長いつきあいだろ
 それからSとMは口先女グループで
 で俺がSと一緒に来たってことは
 K お前とMとがセットなわけだが
 まあ そのうちKとこいつが仲良くなって
 俺とMがシッポリと」と
 調子に乗ったTが言いかけると
 両脇からゲンコツが飛びかかる

 「ねぇ」とS
 「MったらK君のキッチンのどこに何があるか
 知ってるみたいにさっさと手際よくって
 どこまで行ったの おふたりさん?」と
 いいか M
 ウッカリしたことを
 言うんじゃないぞと思う先から
 「ああ 私ね
 明日からここに住むことになったのよ」
 と言い出したM
 オレがまじめな顔でにらむと
 「へぇ けっこうマジみたいね」とSが乗り出してきて
 「ねぇM あんたって
  前はK君のこと嫌いじゃなかったっけ」と

 どうやらこの尋問はMには刺さる質問で
 オレにはもっと突き刺さる質問だったのだが
 そんなことはお構いなしにMがこう言ったとき
 オレはもう少しで頭がアルコール漬けに
 なりそうなほど頭に血が昇る
 「そりゃそうよ
 だってKちゃんは私のオヤジを
 盗っちゃったんだもの」
 カッとなってかオレは「おい M」と
 言ったけど先が続かず黙りこむ

 「なんだかビミョーな話ね」とシタリ顔のS
 オレとM両方をそれぞれ少しは知ってる連中なら
 J 先生がワダカマリの原因なのかと
 うっすら気づいていたかもしれないが
 それをこうあからさまに言われると
 やはり他人行儀といういやつか
 Tなんかは急に黙りこむ

 「では質問 Mさん
 じゃあどんなキッカケで
 Kさんと親しくなったのかしら」とS
 Sという情報通はおしゃべりなときは
 とてつもなくおしゃべりだが
 Mが親しくするだけあっておバカではないらしい

 「ああ それはMが酔っ払ってKが送らされた
 ヨル辺りから何かがちょいと変わったんだよな」とT
 それは少しは当たってた
 「ふうん」とまだ合点がいかないふうのS
 「ところでK君 君ってたしか
 あのヒョロっとした」と  言いかける
 そしたらMが「え なあに?」と向き返り
 なんだかワルイ予感がしてくるが
 Mが突然
 「ねぇS もうT君に抱いてもらった?」と
 反撃に出て
 それから女同士のあからさまなシモネタと
 不思議と純真そうな照れ笑い

 ウワバミでなおかつ食欲旺盛なTと
 めちゃくちゃに陽気なMが次々にワインを空けて
 その勢いにすかさず刑事みたいなSが
 口をはさんで
 時間が過ぎていく

 SはTと付き合っているという割には
 酒は飲まないらしく
 そのうち ひょいと横になり
 Tの胡坐をかいた右足を枕代わりに目を閉じる
 Tも呑みすぎることがあるものか
 そのままそこでゴロリと大の字になり
 気がつけば時計は
 とっくに12時を過ぎていた

 わいわいと馬鹿話とキワドイ話の連続で
 こんなにも時間が早く過ぎたのを
 オレは奇妙な気持ちで受けとめる
 いや受けとめてはいなかったのかも
 しれなかったが
 三人の押しかけサンタに酔わされて
 楽しい
 いやもしかすると
 幸せな気分になっていたのだと

 オレは誤魔化していた自分が気になって
 立ち上がって窓際に行き
 カーテンを少し開けて外を見た
 星はあまり出ていない
 予報では雪になるかもしれないと言っていた
 もし伝説が史実なら
 キリストが生まれた夜には明るい星が
 三人の博士たちを案内したはずで
 しかしその夜には
 神の子の誕生を恐れた
 ヘロデ王が差し向けた兵士たちが
 家々の戸口に立って
 新しく生まれた男子を探していたのでは
 なかったか
 降誕を知らせるただ一つの星を除いたら
 それは暗い夜だったにちがいない

 Mが立ち上がってそばまでやって来て
 オレにくっつくようにして窓から外を見る

 酔ったのかMの身体が温かい
 オレは
 「なんだか暗いな」と独り言のように言い
 それから
 「未踏ちゃんは今頃どうしてるのかな」と
 ポツリと言ったMに驚いて振り返る




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