クリスマス・イブに(1) | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 世界中のどのくらいの国で
 クリスマスは祝われ愛されているんだろう
 それこそ仏教徒だって
 無神論者だってクリスマスを受け入れたのだから
 クリスマスはキリスト誕生の祝いから
 何かもっと別の祭になりつつあって
 もともと雪にとざされた北の国で
 飢えた鳥たちに麦の穂を与え
 冷たさに負けない常緑樹のツリーをたてた
 春を望む祭でもあり それが
 十字架の死から たった三日で復活した
 キリストとどこかで重なって
 クリスマスを超えた
 クリスマス精神みたいな祭になったわけで

 だが
 世界中のどのくらいの人たちが
 クリスマスを祝い楽しむことができるんだろう
 ここでは街が
 クリスマス・ツリーとサンタであふれる日にも
 世界では
 飢えて動けなく冷たくなっている子どもも
 運悪く踏んだ地雷で消える兵士の命もあるだろう
 
 だからと言ってオレたちは 今
 自分たちが生きている 小さな一区切りの
 世界の中で
 せいぜい できる限りの幸せが
 自分たちにも 他の人たちにも
 来るように願い 少しばかりの施しをして
 質素に暮らす以外に何ができるのだろう

 そんなことを今年のオレは考えて
 街に出かける気分にもならぬまま
 TVを見るわけでもなく音楽を聴くわけでもなく
 部屋でぼんやりと一日を過ごし
 あっと言う間に
 夕闇が落ちてきた

 そう
 オレは待っていたのだと思う
 いつものように
 誰かを 何かを
 すべてをひっくり返す大災害
 あるいは突然に煌く
 都会に似合わないほどの満天の星
 あるいは
 ドアをそっと開けて
 入ってくるクリスマス・キャロルの
 幸せな亡霊たちか
 それとも

 プラスチックのディジタル時計が
 ピンッと鳴って午後7時
 何か食べようかと立ち上がったとき
 戸口に
 誰か人の気配 かすかではあるものの
 確かに
 寒い中をやってきた息づかい

 オレは何も考えずドアを開ける
 それが強盗だったとしても
 あるいは集金に来た新聞屋のおじさんであったとしても
 誰にでもかまわずドアを開けたくて

 ところが
 そこにいたのは
 マッチョで大酒呑みのTと
 その後ろから顔半分だけ覗かせた
 最近Tと仲がいいとMが言ってた
 情報通のS
 何も仲良く二人でお出ましにならなくっても
 
 「おー メリー・クリスマス
 さびしいKの良き友として今宵
 ささやかなご挨拶に参上」
 と息を弾ませ大声で言う
 何を勝手なこと言ってるんだ
 どうせこれからデートだろうに
 その前菜にオレの顔見ていくわけか

 中に入れたものか戸惑っている
 オレの耳に聞こえた別の声
 「Noが来なかったからね」と
 二人をやっと押しのけて
 サンタみたいな笑みを浮かべたMが
 顔を出す
 たしかにオレはNoを言いそびれてた
 こうなることを願ってたわけでは
 絶対なかったが

 「ワルイけど 今夜はこの三人が
 Kちゃんとこを占拠するのよ」と
 もこもこコートのMが宣言する
 「ちょ ちょっと そんなこと」と
 拒もうとするオレを脇に押しのけて
 強盗みたいなサンタが三人
 どやどやと

 「へー K君って 綺麗にして暮らしてるんだね」と
 ハデギミと言われるSが派手なコートを床に置きながら言い
 これじゃあ来週の初めにはみんなが
 オレの部屋の間取りもベッドも何もかも
 知っていることになりそうだった
 TはTで両手に持った大きな紙袋を
 キッチンのそばのテーブルにドンと置き
 自分も椅子にドンと大きな身体を載せて
 「さあ 女性の出番だ」とふんぞり返る

 どうやらコイツラ結託し オレを
 飢えた小鳥にしたいのらしく
 クリスマスの「ク」の字も無い部屋で
 クリスマス・ツリーでも飾るのか?

 MはまだSの隣に
 少しだけ心配そうな表情と
 明るいクリスマス精神みたいな表情を
 パッチワークみたいにつなぎ合わせた顔をして
 立っていた
 「M
  でも今夜は」と言うオレに
 「クリスマスは待つものじゃないわ」とだけ
 静かに言い返して
 脱いだコートをオレのベッドにほおり投げ
 さっさとSとキッチンへ

 万事休す
 どうしようかとまだ戸惑っているオレだったけど
 コイツラが居てくれて
 それでオレも救われるのかもしれないと
 少しずつ
 思い始めてた






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