遥かな街 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 遠い街
 遥かな街

 あたたかな家があり
 あたたかな声がずっと
 聞こえる

 僕らが
 幸せに育った場所
 
 時の彼方に
 それでも
 いつまでも
 変わることなく
 記憶のなかに
 大事にしまわれた街

 春に花を
 夏に波を
 秋に落ち葉を
 冬に日だまりを

 僕らのいのちが
 ずっと息づいている

 幼き日々
 少年と少女の時代
 生意気になって
 喧嘩して
 仲直りして
 笑った場所

 僕らの親たちが結婚し
 小さな家を建て
 賢かったり愚かだったりした
 親戚や仲間たちが
 生きていた街

 校舎の裏で
 好きな人を待ち
 大きな欅のかげで
 泣いた学校

 朝に美味しそうな匂いを
 撒き散らしていたパン屋
 午後に寄り道をして
 何冊も立ち読みした本屋

 夕陽をいつまでも見ていた丘
 散歩させていた犬が
 喜んで僕らを引っ張っていった泉

 老人たちがぼそぼそと
 話しながら日向ぼっこしていた
 公園の古いベンチと
 僕らの堅固な砦だった
 ジャングル・ジム


 晴れの日も 雨の日も
 風の日も 雪の日も

 僕らの
 すべてを持っていた街


 もしも今
 懐かしく
 切なく
 思い出すのなら
 それを
 遠い過去の
 思い出だけにしては
 いけない

 今 僕らが
 息をする場所に
 その素晴らしい街を
 作ろう

 作って
 僕ら自身を取り戻す
 今
 それぞれの
 「この場所」で

 それこそが
 記憶というものの
 ほんとうの
 意味





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