S8  84-2  恐怖を払え | レクイエムのブログ

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千狛瑠「……さすが皇城蘭世。面白い闘い方をするわ。」


皇城が放った突き、それは吾妻の右肩を貫いていた。吾妻の純白の肌や髪が血で濡れていくも、吾妻は全く痛がる様子を見せず、それどころか皇城に感心したような笑みさえ向けてみせたのだ。


千狛瑠「危うく右腕を持っていかれると思ったわ。」


蘭世「ふん。異常者と思っていたが無痛者か。 だが、そこまでの深傷だ。まともに右腕を動かすことすらできないだろうな。」


千狛瑠「右肩を貫いた程度で勝ったつもり?ただ右腕が動かしづらくなった、それだけよ。」


吾妻の血が付着したレイピアを払い、吾妻の落とす。吾妻の目は、皇城が握るレイピアに向けられている。レイピアを見た吾妻が語りかける。


千狛瑠「そういえば、前の皇城隊の隊長もレイピアを使ってたわね。 皇城家の人間は生まれてすぐに1人1本レイピアを渡されるのかしら?」


蘭世「……何が言いたい?」


吾妻の吐いた言葉に皇城が反応する。指摘されたくないことを指摘されたように、不機嫌そうに言葉を返す。 


千狛瑠「以前闘った皇城隊の隊長もお前と同じくレイピアを振るっていた。お前ほどの速度は無かったけどね。」


蘭世「無駄口を叩くな。今は私とお前との闘いだ。」


千狛瑠「軽口くらい良くないかしら?どうせ長くなるわこの闘い。 そういえば……お前の〔兄〕は元気かしら?」


蘭世「───────ッ!」


兄の名前が吾妻の口から出た途端、 皇城の目の前は思わず真っ赤に染まった。皇城隊の前隊長は皇城の兄だった。サバトの日、吾妻と交戦した兄は、テラースモッグを吸ったことで恐怖に狂う廃人と化してしまったのだ。


蘭世「貴様……ッ!」


千狛瑠「もう1つ思い出したわ。あの日、兄も殿として私に挑んできたわね。お前と同じようにね。 兄妹揃って……本当に似たもの同士で笑えてくるわ。」


蘭世「貴様が兄を……侮辱するなッ!!」


怒号と共に皇城は盾を無数に生み出し、吾妻めがけ射出する。迫りくる盾を前に、吾妻は再びフィアーテラーズからテラースモッグを放つ。


蘭世「ッ!」


口を覆い、すぐさまテラースモッグから距離を離す。吾妻の姿は再びテラースモッグの中に隠れる。


蘭世(落ち着け……向こうはあえて私を挑発して怒りを誘っている…… 怒りに囚われるな。行動を短調にするな。 常に冷静に……ヤツの動きを読め。)


テラースモッグの中から何を繰り出してくるのか、皇城は集中力を上げて注視する。その時、微かに見えたテラースモッグの隙間に、光が見えた。


蘭世「!」


それに気づいた皇城の目の前に巨大な盾が現れると同時、テラースモッグを裂くように光線が飛び出してきた。盾で受け止めたものの、その激しい衝撃波は盾を振動させるほとだ。


蘭世「レーザーだと……!?」


千狛瑠「〔テラースクリーム〕、当然これも恐怖の数だけ強くなる。 レーザーは読んでなかったようね。」


蘭世「これで不意を突いたつもりか?ガスを晴らしたのは悪手だった……」


姿を顕わにした吾妻に反撃しようとした皇城だったが、その足に何かが当たる。それは筒状の物体だった。その正体に気づいた瞬間、その物体は発動した。


千狛瑠「夜の闇に慣れたらこれはキツいわよねぇ?」


筒状の物体から眩い光と轟くような音が響き、周囲を支配する。スタングレネードだ。攻撃と同時に吾妻はこれを転がしていたのだ。不意打ちを食らった皇城の動きが止まる。


蘭世「く……!」


千狛瑠「これで終わりかしら!?皇城蘭世!!」


動きの止まった皇城めがけ、フィアーテラーズが迫る。咄嗟に目の前に盾を出現させるが、フィアーテラーズの拳は盾を突き破り、皇城の体に直撃した。


蘭世「ガハッ……!」


千狛瑠「切り刻んだ次はすり潰しましょうか!?」


吹き飛ぶ皇城を潰そうと、再びフィアーテラーズが拳を振り上げる。しかしその攻撃は、無数に空から飛んできた盾によって弾かれた。


千狛瑠「!」


蘭世「何を呆けている?潰されたいのか?」

 

千狛瑠「……あら。」


何かに気づいた吾妻がバックステップを踏む。すると上空から吾妻を潰さん勢いで盾が落ちてきた。殴られたものの、皇城は既に体勢を立て直していた。左腕を見ると、そこだけ穴が空き、そこから覗く皮膚は青黒く変色していた。


千狛瑠「腕を犠牲にして防いだのね。盾も加わっていたとはいえ……その腕折れてない?」


蘭世「腕の1本くらい折れることなど覚悟するまでもない。 腕1本使えなくなった程度でこの皇城蘭世が落ちると思うか?」


皇城がレイピアを払う。するとその動作が号令だったかのように、皇城の背後に無数の盾が城壁のように並ぶ。


千狛瑠「そう来ないと楽しめないわ皇城蘭世。 お前の全力を私にぶつけてきなさい。全力のお前を殺せば相当な恐怖を与えられるはずだもの。」


蘭世「抜かせ。 たとえ天地がひっくり返ろうとも……この私と我が半身、〔ハイエンドナイツ〕が貴様に討ち破られることなどない。」


全身に大小様々な盾を模った鎧を纏い、軍旗を手に持つ鎧騎士のグラムと共に、皇城は吾妻をまっすぐに見据える。