S8  84-3  恐怖を払え | レクイエムのブログ

レクイエムのブログ

ブログの説明を入力します。

──兄は私にとって、何者にも代え難い、憧れの存在だった。


蘭世「お兄様、本日も公務お疲れさまです。」


巌成『ありがとう蘭世。もうすぐあの計画も実現しそうだよ。』


──旧華族である皇城家は長年政財界に大きく関わってきた。あらゆる事業に関わり、その影響力は絶大なものとなっていた。そんな一族の元に生まれた私も兄も、幼少期より厳しい教育を受けてきた。


蘭世「SWORD設立計画……感染症によって乱立した組織の暴走の抑止力となるために考案されたのですよね?」


巌也『あぁ、警察でも手が回らないことを見越し、新たな抑止力となる。 盟神先生の考えることにはいつも驚かされるよ。』


──防衛大臣の盟神 公由氏の考案したSWORD設立計画には本人たっての希望で皇城家も出資していた。当時の当主、私の祖父は資金援助の条件として兄を隊長として迎えることを提示していた。


巌也『これでも一通り武道は経験してきたとはいえ、いざ現場で活かせるかは正直不安ではあるよ。 だけど、皇城家の長男として恥じないよう努めるよ。』


蘭世「お兄様ならきっと、素晴らしい隊長になります。」


──そうしてSWORD本部が設立され、正式にSWORDが始動した。兄が率いる皇城隊は設立されてすぐに頭角を現し、瞬く間にSWORDの最高戦力となった。


──SWORDの激務に追われるなかでも、兄は時間を見つけては私に会いに来ていた。


巌也『なんとか上手くやれてるよ。私以外にも優秀な隊員は多いからね。 特に、副隊長に剣崎という人がいるんだが……彼は特別優秀だ。』


蘭世「同僚に恵まれているようで安心しました。 それと……私も近々SWORDに入隊しようと考えています。」


巌也『そうか…… 皇城家の人間としては当たり前にある選択肢だが、兄として妹を危険な現場に向かわせるのを容認するのは気が引けるな。』


蘭世「私はお兄様を尊敬していますので、そのお姿をもっと近くで見ていたいのです。 そしてゆくゆくは……隊長のポジションに就きたいと考えています。」


巌也『いい心がけだ。そこまで言うなら反対しないよ。 だけど……SWORDに入るなら自慢の髪もまとめないとな。』


蘭世「確かに……長すぎて現場には合わないかもしれませんね。」


──現場が危険なのは百も承知だった。だが現場の危険性よりも、兄と同じ場所に立てることの方が私にとっては何よりも嬉しかった。


──だが、私達を襲った悲劇が、それを許さなかった。


『先日、凱旋パレードを狙った襲撃事件で、民間人や対応にあたったSWORDを含め、多数の死傷者が……』


蘭世「お兄様が……任務にあたってるパレードだ……」


──SWORDが警護にあたっていた凱旋パレードがその日、襲撃を受けた。犯行を起こした組織の名はデモンズ、多数の死者を出したうえ、SWORDでは1つの隊が全滅したという話さえもあった。私はただただ、兄の安否が心配だった。


蘭世「無理なことだと分かっていますが……!兄に……皇城 巌也に会わせてください!」


──兄が負傷していながらも無事だったと聞き、私はすぐにSWORDの医療施設へと向かった。兄のケガの状態は聞いていた。命に関わるものでは無いらしい。だが何故か兄は、隔離されていた。


蘭世「お兄様!ご無事でしたか!?」


──兄のいる病室に駆け込むと、そこにはベッドの中に佇む兄がいた。しかし兄は私の方を見向きも返事もせず、ただ何も無い空間を眺めていた。


蘭世「お兄様……どうなさいましたか? お兄様?」


──呼びかけても返事をしない兄の肩に触れた、その時だった。兄の体がビクンと跳ね上がると、酷く怯えながらわめき出したのだ。


巌也『うわぁぁぁぁぁぁ!!止めろ……!止めろ!!来ないでくれぇぇ!!』


蘭世「え……お兄様……?」


──目の前で起きた光景を私は受け止めきれなかった。己に厳しく、私には優しく接してくれた兄が、今目の前で、錯乱し、子どものように泣き喚く姿を、私は受け入れられなかった。この時初めて私は、兄が隔離されている理由を知った。


蘭世「え……え……?」